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経済ジャーナリストの野口 恒 氏が、業種・業務分野別に、業界動向やITの最新情報、活用事例等をレポートいたします。 → 一覧はこちら
(2007.9.10 Update)
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業種別IT活用実践シリーズ−流通業のIT活用
1)最新動向〜好業績を上げる小売業主導による製販統合モデル「SPA」
2)事例研究〜総合的な情報発信企業を目指すゼイヴェル
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1) 最新動向
『好業績を上げる小売業主導による製販統合モデル「SPA」。その秘密はどこにあるのか』
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いまアパレルやファッションなど衣料品業界で、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)と呼ばれるビジネスモデルが注目されている。SPAとは、日本語で「製造小売業」を意味し、簡単に言えば、小売業主導による製販統合モデルと考えてよいだろう。SPAが注目されている理由として、消費低迷や売上げ不振で苦しむ衣料品業界にあって、UNIQLO(株式会社ユニクロ)やpoint(株式会社ポイント)、株式会社西松屋チェーン、株式会社AOKIホールディングス、株式会社ハニーズなどSPAを導入している企業が、軒並み増収増益の好業績を上げている点が挙げられる。
SPAは、米国のGAP社が開発・提案したビジネスモデルである。もともとアパレル企業が、自社内で商品の企画・開発・生産・小売販売・物流までを一貫して運営し、コントロールする製販統合モデルであった。もちろん、これらの機能のうち、たとえば生産や物流を外部企業に委託する場合もあるが、企画・開発と販売の機能はSPA企業が保持して全体の仕組みをコントロールしている。商品の企画・開発から生産・販売までの流れを企画・販売部門が中心となって管理・運営するという点では、販売主導のSCM(サプライチェーン・マネジメント)だと考えることもできる。SPA企業は、原材料(糸・生地)段階から所有権を持ち、縫製・染色などの加工工場に原材料を供給し、仕様書発注による生産委託を行い、工場出荷から小売店の店頭販売までの販売・物流機能を自社で担い、一貫して運営・コントロールする。
SPA企業の大きな特色は、次の点にある。
- どんな商品を作るか、いつ、どれだけ生産し、販売するかといった企画開発・販売予測・生産計画の主要機能を、自社が一貫して統合的に管理する。
- 製販統合で、しかも消費者に直結したビジネスモデルであるため、消費者がいまどんな商品を望んでいるか、どんな商品が売れているかといった消費者ニーズや売れ筋情報を商品企画・生産計画・販売計画に素早く反映できる。
- 製販統合による在庫管理を徹底的に行うことで、過剰な生産在庫や販売在庫をとことん削減して、在庫リスクを極小化することができる。
- 製販統合と消費者直結であることから、小売店頭の実需情報が工場の生産計画に直接反映されるため、過剰在庫が削減できるだけでなく、「売れるのに商品が足りない」といった販売機会ロスを極小化することができる。
SPAは、企業が企画・開発した商品コンセプト、ブランドバリュー、商品内容に共感してくれる特定多数の顧客層をターゲットとして、商品を企画し、集中的に生産し、販売していく。そのため、見込み生産・見込み販売される通常の商品に比べて粗利益率はかなり高い。SPA企業は、できる限り自社で企画・開発したPB(Private Brand)商品の比率を高め、粗利益率の向上に努めている。
SPAの最大の課題は、商品の企画・開発から生産・販売まで、そのリスクのすべてを自社が持つため、企画内容や販売(需要)予測がひとたび外れたら、大きな損失を負担しなければならないことである。高い粗利益率と高いリスクは表裏一体の関係にある。企画開発や販売(需要)予測の精度をどこまで高められるかが、リスク回避の最良の方法となる。
現在、SPAを導入している企業が好業績であるのは、SPAを使いこなすノウハウを身に付け、運営管理も順調に回転しているからであろう。SPAの運営管理を支えているのがITの活用である。たとえば、小売店頭からネットワークを通じて毎日送られてくる膨大な販売(実需)データをすぐに収集・分析して、生産計画や販売計画に的確に反映させるにはコンピュータやITの活用が欠かせない。生産計画や販売計画のベースになる需要予測の精度を高めるには、コンピュータを駆使して仮説と検証を繰り返し、ノウハウを蓄積する必要がある。SPAが日本に導入されてかなりの年月が経ち、その間、衣料品業界を中心に導入企業も増えつつある。今後、SPAは小売業主導による製販統合モデルとして、衣料品以外の小売業にも導入され、どう普及・進化していくのか、大いに注目される。(文・経済ジャーナリスト 野口 恒)

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