第15回 最新動向
つい最近まで、日本の製造業は多くのメーカが豊富な安い労働力と巨大な国内市場を求めて中国に進出し、生産拠点の移転を積極的に進めてきた。しかし、石油などの燃料費高騰により事情は一変しつつある。とくに、燃料費高騰による物流コストの上昇で、中国への移転は必ずしも競争優位な条件ではなくなった。中でも、自動車や家電・電機業界など、日本経済を引っ張ってきた輸出産業ほど深刻な影響を受けている。そのため、生産拠点の国内回帰、国内生産の見直しを進めている企業が増えている。
また、取引先企業の要請で中国に進出した中堅・中小メーカにとっても、燃料費高騰や物流コスト上昇の影響は極めて深刻だ。燃料費や物流コストの上昇分を製品価格に転嫁できず、経営を圧迫する要因になりつつある。燃料費高騰がこのまま続くのであれば、生産拠点を日本に戻して国内生産を強化する動きは加速するであろう。
親会社の要請で中国に進出した電気系部品メーカのA社長は、日本の中堅・中小メーカの生き残り戦略について、次のように語っている。
「最近の燃料費高騰、物流コストの上昇はまったくの予想外の出来事であり、中小メーカにとってその影響は極めて深刻です。グローバル市場では、日本の中堅・中小メーカは常に中国メーカとの厳しい価格競争にさらされています。日本企業の中国進出により、中国メーカの加工技術は飛躍的に向上し、いまや日本メーカと遜色ありません。むしろ、燃料費や物流コストが上昇した分、日本メーカの方が不利な状況にあります。今後、日本メーカがグローバル市場で生き残るには、中国メーカとの厳しい加工競争に勝ち残ることが不可欠でしょう。つまり、中国メーカがとても真似できない高度な加工能力を身に付けることです。そのためには、国内生産を見直し、国内生産を強化することが必要となってきます」
そこで同社がいま、中国メーカとの加工競争に勝ち抜く切り札にしようと考えているのが「オール・イン・ワン加工」である。これは、取引先企業のどんなに複雑で高度な注文にも、「何でもやります、何でもできます」と対応する考え方である。いかに中国メーカの加工技術が向上したといっても、自動車メーカの要求するミクロン単位やサブミクロン単位の超精密加工や、最先端の家電製品に要求される高度な加工をこなせる中国メーカはまだ少ない。
「中国メーカとの競争はオール・イン・ワン加工で勝ち残る。ロット(数量)は一個から一万個以上まで、やさしいものから難しいものまで、どんな注文加工にも応じます。現在これができるのは日本メーカだけです」
同社長がこれだけ自信を持ってオール・イン・ワン加工を語ることができるのは、ネットワークで繋がったコーディネート企業の存在があるからだ。材料は金属全般から樹脂まで、切削・研磨・表面処理などあらゆる部品を加工できる、何十社にも及ぶ中堅・中小の加工メーカがネットワークを通じて連携している。1社では難しい加工の注文も、仲間のコーディネート企業と協力すれば対応することができる。「何でもやります、何でもできます」を可能にする、高度な加工技術を持った中堅・中小メーカの連携ネットワークは中国にはまだ存在しない。この点が日本メーカの強みであり、競争力の源泉でもある。
「日本の中堅・中小メーカが単独で中国メーカと競争して勝ち残るのは非常に難しい。今後グローバル市場で生き残るには、様々な加工技術を持ったコーディネート企業とネットワークを組んで協力しながらオール・イン・ワン加工を実現していくしかない」とA社長は語っている。
現在、日本の中堅・中小メーカは企業生き残りをかけた正念場に直面している。経営トップにはこれまでの常識にとらわれない逆転の発想が求められる。

(2008年10月14日掲載)