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第131回 『アイロン』

■ シワを伸ばすのは本能!?

考えてみると、アイロンは必ずしも生活必需品とは言えない気がする。アイロンの役目は、服のシワを綺麗に伸ばすこと。熱を加えて殺菌するといった役目も考えられるが、掃除機や冷蔵庫、炊飯器などと比べると、最近では型崩れしにくい形状記憶のワイシャツ等も出てきたせいか、日常生活におけるその存在感は薄い。
しかし、「シワを綺麗に伸ばしたい」という願いは、人間にとっては本能に近い行為なのかもしれない。なぜなら、人間は紀元前から、シワを伸ばすために様々な工夫と努力を繰り返してきたからである。今回は、そんなアイロンについて調べてみた。


■ アイロンの歴史

アイロンの原型が世に登場したのは、なんと紀元前1世紀頃のこと。中国において、底の平らな金属製の鍋に炭を入れて加熱し、これを使って布のシワを伸ばした、という記録がある。紀元前1世紀といえば、日本では弥生時代にあたる。やっと米を作り出し、石包丁で収穫を行い、高床式倉庫に米を保存し、木綿の布の真ん中に穴を開けて被るポンチョのようなものを着て、地べたに座って生活していた時代。そんな頃に中国では、すでに布のシワを伸ばすことに工夫がなされ、熱を与えればシワを伸ばせることを発見していたのである。ちなみに、中国ではその頃に紙も発明されている。

この方法を越える技術は、その後1900年間近く発見されなかった。1882年にアメリカ人のシーリという人物が電気アイロンの特許を取得するまでは、金属に炭を入れたり、直接金属を加熱したりと、紀元前の中国とほとんど変わらない方法が取られていたのだ。そして、シーリによる電気アイロンの発明後、布の種類によって温度調節ができるものや、個人でも扱える小型化されたものなどが次々と登場する。しかし、小型化といっても、現在のようなアイロン製品を想像してはいけない。その重さは5kg以上もあったという。まさに、毎日がダンベル体操のようなアイロンがけだったのだ。また、アイロンがけは夜間にしかできなかった、という面白い話もある。
当時、電気アイロンが家庭に浸透し始めていたアメリカでは、発電(電力供給)が夜間にしか行われていなかった。洗濯機も冷蔵庫も存在しなかった20世紀初期では、電力が必要だったのは灯りだけだった。そう、灯りが必要な夜間だけ。昼間に電気アイロンを使おうにも、発電が行われていなかったのである。

こうして少しずつ発展を遂げていたアイロンの世界に、革命的な製品が登場する。それは、熱に水(水蒸気)の力を利用したスチームアイロンである。それまでにも、布に霧を吹きかけ、しばらくしてからアイロンをかけると、シワがよく伸びることは知られていたが、初めてこの霧吹き機能をアイロンそのものに組み込むことに成功した。電気アイロンの登場から30数年後の、1915年のことである。そして、その発明者(アメリカでの特許取得者)として記されている名前にも驚かされる。
「SHINTAROU KAKO」
そこには、日本人とおぼしき人物の名前が記されている。どのような人物だったかは不明だが、今から100年近く前、アメリカにおいてアイロンの発明に関わった日本人がいたというのは、何とも心温まる話である。
(2007年6月11日掲載)

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