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第94回 『サイコロ』

■ 時間つぶしに最適?

究極の質問の一つに「もし無人島にたった一つだけ持っていけるとしたら?」というものがある。
いつまでも読んでいられる書物として百科事典。膨大なパターンを楽しめる将棋の本。いくらかでも深く人生を考えられるのではとバイブルと答える人も多いと聞く。
しかし本当にこれだけ!ということであれば、もしかしたらこれを選ぶ人がいるかもしれない。
ダイス。そう、サイコロである。
もし2〜3度でもダイスで勝敗の行方を決めるゲームをやった経験のある方なら、その時間をつぶす力の強さをご存知のはずだ。十数時間がまさに一瞬のように過ぎていく。面白い、面白くないなどというレベルでなく、サイコロを振り続けることを身体が求めているかのようである。
6つの数字の乱数発生装置には、人を根っこの部分から熱中させる要素があるということなのだろうか。古今東西、サイコロは人間にとって根源的な魅力を持っていることは間違いない。今回は、そんなサイコロについて調べてみた。


■ サイコロの起源

サイコロの起源は古く、その原型は紀元前3200年のエジプト古王朝や紀元前2000年ごろの古代メソポタミアで確認されている。当初は現在のような立方体ではなく、長細い、かまぼこの板を縦に2分割したような形状で、下駄を放り投げて明日の天気を占うように、この先の世の中の吉凶を占うために使われていたようだ。
その後、ダイスはお馴染み6面のものをはじめ、現在にいたるまで2面、4面、10面、12面、20面など実にさまざまな形状のものが作られている。アフリカのカメルーンでは、木の実を割って作られた表と裏しかないサイコロが発掘されている。たぶんこれは「やるか、やらないか」、そんな判断に迷う場面での意思決定に使われたのではないかといわれている。いつの時代でも最後は神頼み!の世界はあったということなのだろう。
アメリカ・インディアンのサイコロは棒、三日月、円、椅子、動物の型を使ったもの。サイコロ的な使われ方にタロット占い的な要素も入っていたことが想像される。

日本にサイコロが伝えられたのは奈良時代より少し前、双六とセットで中国から伝えられたといわれている。当初は貴族の遊びであったが、平安時代の終わりごろから庶民の間にも普及するようになり、発掘調査でもしばしば出土されている。
日本最古のものは九州太宰府跡から出土した5×1cmの4枚の木製で、それぞれに1〜4本の線が刻まれている。また、現在の形状に近い立方体のサイコロは、宮城県多賀城跡で発見された西暦700年頃のものが最古と考えられている。
面白いのは日本最古の歴史書「日本書紀」において、サイコロ(双六)の禁止令が発せられたとの記録があることである。当時からサイコロを使った遊びには、人を狂わすギャンブル性が十分認識されていたということなのだろうか。
また、歴史上さまざまな形状のサイコロの中で、6面のものが多く使われるようになってきたのは、人間のギャンブル性に惹かれる気持ちが影響しているのかもしれない。なぜなら、転がりやすさと止まりやすさの頃合が良いからである。実際試してみると、4面ではワクワクするほど転がらないし、10面や12面では人の興味が途切れてしまうほど、いつまでたっても転がっている。
おそらく6面以外のサイコロでは、さまざまなサイコロを使ったゲームへの興味もかなり下がることであろう。

ついでに、サイコロの秘密(といっては大げさだが)についてお話しておこう。
実は1の数字が赤いのは、世界でも日本だけなのをご存知だろうか。
1が赤い理由には、面白い諸説がある。
まずは、「1は特別」説。数字の最小の値、1が特別であるため、目立つように赤にしたという単純なもの。最初という意味が特別であること。日本で奇数が尊ばれてきたのも関係あるかもしれない。
つぎは、「日の丸」説。1926年に和歌山県のサイコロ製造業者が、1を日の丸のように赤にして売り出し、大ヒットしたためというもの。
最後は、「太陽説」。サイコロの数字は天地、方角をあらわしている。1は「天」を、6は「地」、3は北、4は南、2は西、5が東。そのため天の1は太陽をあらわす赤が使われたというものだ。
古代の昔から人々を惑わし、喜ばせてきたサイコロ。紀元前49年、ルビコン川をわたったカエサルは「賽は投げられた」というあまりにも有名な言葉を残したが、果たして彼が投げたサイコロはどんな形をしたものだったのだろうか。
(2006年1月10日掲載)

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