再生医療とは、けがや病気などで機能障害に陥った体の部分に細胞を補い、機能の再生をはかる治療方法のこと。たとえば、角膜の治療では、口腔(こうくう)内の粘膜から角膜細胞を再生して、患部へ移植する手術がすでに行われている。この治療方法は自分自身の細胞を使うため拒絶反応がなく、次世代治療としての期待が大きい。しかし、培養細胞を製造できる医療機関は限られており、治療の拡大には輸送技術の確立が大きな課題となっていた。
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運ぶのは、シャーレ上で培養されたシート状の細胞組織。東京女子医科大学の岡野光夫教授が独自に開発した培養技術によるもので、37℃で安定状態、手術時に32℃以下にすると細胞がきれいに剥離(はくり)できるという特性をもつ。このため細胞輸送には、37℃前後の一定温度を保つことが条件だった。40℃近くになると細胞は死滅し、32℃では細胞がシャーレ面からはがれ始めてバラバラになってしまうからだ。物流業界では冷凍や保温の技術はあるものの、一定温度で運ぶための技術は存在しなかった。当初はヒーターを使う方法も検討されたが、サーモスタットによる温度調整はブレが大きく、温度を一定に保つのには向かないことがわかった。また、37℃付近で発熱する蓄熱材料をいろいろと試してみたが、容器内部の温度を一定温度で安定させることが難しかった。
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そこで日立製作所の研究開発本部と機械研究所に相談し、熱流体技術・シミュレーション技術を用いた検討を始めた。
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「まず、蓄熱材は、37℃付近に融点をもつパラフィン系材料を選び、シャーレ周辺に密着させ、シャーレに蓄熱材の熱が伝わりやすいようにした。熱源を密着させれば温度が一定になるだろうと考えたわけです。以前は学生が脇に細胞入りの試験管を挟んで運んだこともあったと聞いて、この方法が間違っていなかったと確信しました」
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しかし、長時間にわたって温度を一定に保ち続けるのは蓄熱材が大量に必要になる。そこで、熱を容器から逃がさない技術として真空断熱材の利用を検討した。この真空断熱材は、日立の冷蔵庫に使われている断熱材で、断熱性に優れているだけでなく、曲げることができるので、周りをぐるりと包んでしまえば、熱が逃げにくくできる。さらに、これ以外にも蓄熱材の最後までシャーレを37℃に保てるように容器内部の部材配置を工夫していった。これらの工夫により、外気温が25℃くらいならば、容器内の温度を37℃付近で45時間一定温度で保持できる容器を完成させることができた。
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「このようにバックアップしてくれる研究制度、研究所があるというのも、日立グループならではの強みですね」
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容器は高さ20×幅30p弱、重さ6sと、手荷物として新幹線や飛行機でも運べる大きさだ。しかし、空輸の場合は、気圧の変化が細胞に影響を及ぼすことがわかり、容器の密閉度を高める方法を検討中だ。この検討は、日立物流が独自に行っている。X線も照射できないので、その免除申請をするなど、手続き上のことも学んだという。現場で気付いた改善策を、積極的に自社のノウハウにしていくという考えだ。
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「サービスの提供というのは、モノをつくって終わりではなく、それを使うところまで進めておく必要がある。2006年4月からは、主に関東圏の研究機関向けに実験用の細胞の輸送サービスを行っています」
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折しもこの10月、再生医療第1号として、バイオベンチャー企業に厚生労働省から培養皮膚の製造販売の認可がおりた。今後は軟骨や角膜などにも順次、許可がおりていくだろう。
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「再生医療用細胞は培養方法や形状によって適温も違ってくると予想され、どんな温度帯でも定温化できるよう改良を重ねています。この分野の物流はまだまだ開発の余地がありますから、これからもどんどん新しい技術を提案していきたいと考えています」
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