− トンネルアクチュエータは、金さんが中心となって2001年に日立が開発した技術ですが、まずはその原理と概要を簡単におさらいしていただけますか。
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金: わかりました。現在の半導体製造装置や工作機械などでは、素材を加工する際の細かな位置決めや穴開けなどの作業時間を短縮するため、従来の「回転機+ボールねじ」という技術から、高速移動が可能な「リニアモータ」へのシフトが進んでいます。トンネルアクチュエータ(以下、TA)はコア付リニアモータの一種ですが、ローマ字の「G」の形に似た磁極歯を交互に組み合わせてトンネルのような空間を設け、この中に永久磁石を張った可動子が、高速かつ非接触に往復運動するユニークな構造となっています。これにより磁束の流れが上下対称となるため磁気吸引力が相殺でき、通常のリニアモータのように可動子が片方に引き寄せられる性質がなくなります。吸引力に打ち勝つための強度がいらないため、従来装置に比べて全体構造の軽量化やコンパクト化が実現できます。さらに、上下の磁極歯間に磁束が流れることから、エネルギー漏れも非常に少なく、電力を効率よく大きな推進力に変えられます。2004年には世界最高となる加速度40Gを実現しました。
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図1 トンネルアクチュエータの名前の由来
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− まさに従来のリニアモータの弱点を克服する新技術だったわけですが、その後どのような強化を図ってきたのでしょう。
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井出: TAの技術はすでにグループ企業である日立ビアメカニクス株式会社の「プリント基板用ドリル穴明機」に採用されていますが、TAの特長を活かした、より幅広い応用製品の開発を進めるには、クリアすべき課題もありました。例えば携帯電話に入っている半導体チップを製造する際の、ナノクラス(10億分の1メートルクラス)の超精密位置決め駆動技術。ここにTAを適用させるには、薄い永久磁石板の“たわみ”を防止する役割を持っていた回転ローラーによる摩擦が位置ずれの要因となるため、回転ローラーを用いない構造にすることが大きな課題でした。
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金: そこで思いついたのが、永久磁石板の上下に垂直尾翼のような羽を付ける形状でした。薄い紙でも、折り曲げて90度の角度に立てれば強くなる。あれと同じ発想です。どうすれば永久磁石板の強度を上げられるか、数年間悩んでいましたが、最初にTAの原理を思いついたのと同じで、ある日突然ひらめいたんです(笑)。これが“たわみ”に強く、回転ローラーのいらない剛性強化型TAの開発へとつながりました。
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図2 永久磁石板の剛性強化による効果
※クリックして拡大図をご覧下さい
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金: もう1つ、大きなブレイクスルーになったのが、静岡理工科大学の大塚二郎教授との出会いです。大塚教授はナノレベルでの超精密位置決め・加工技術の世界的権威で、2001年の発表時からTAの特性に注目されていました。そして2003年から共同研究する機会をいただき、さまざまな関連技術やノウハウでTAをどんどんブラッシュアップしてくださいました。それが今回発表した、剛性強化型TAとリニアボールベアリングの組み合わせによる超精密位置決め装置として結実したのです。
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− 新技術は従来と比べて、どのような特長があるのでしょう。
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金: これまでの超精密位置決め装置では、推力が大きい代わりに磁気吸引力も強い「コア付リニアモータ」より、推力が小さいぶん吸引力も少ない「コアレスリニアモータ」が多く使われていました。摩擦のないリニアモータを正確な位置できちんと止めるため、多量の電気エネルギーが使われるので、コイルの発熱を抑える冷却装置が必要となります。そうしないと鉄道のレールのように暑さで部材が伸び、ナノ制御などできなくなるからです。さらに推力の小ささを補うため、摩擦のないエアー補助ステージというものを作るのですが、これらの周辺装置に数百万単位のコストがかかってしまいます。
一方、同じことを通常の「コア付リニアモータ」で行っている装置では、磁気吸引力に打ち勝つためにリニアボールベアリングを使用しますが、ボールの変形による位置ずれを避けるため、空気や油の圧力を利用する高価な支持機構が必要でした。つまり、ナノクラスの位置決めにはどうしても高コストの装置でしか対応できなかったのです。
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− TAとリニアボールベアリングの組み合わせならコストが安くなるのですか?
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金: そうです。リニアボールベアリングなら追加コストは数万円で済みます。構成部品も少なくシンプルな構造なので、応用製品への取り付けが容易なのも特長です。大塚教授は「吸引力が相殺されるTAなら、リニアボールベアリングには負担がかからない。あとは制御技術できれいに動くはずだ」とおっしゃってくれました。私は最初、摩擦があるから無理だと思っていましたが、実際にやってみると、教授のおっしゃるとおりスムーズかつ正確に動きました。あれはとてもうれしかったですね(笑)。制御システムは、この6年間ずっと一緒に研究を続けてきてくれた柴田さんが組んでくれましたが、彼のサポートも非常に心強かったです。
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柴田: 新型TAの制御システムは、ナノより3けた下の単位であるピコ(pico)単位のスケールがついており、現在、世界最高の分解能である34ピコの細かい位置信号を基に超精密位置決め制御を行っています。今回は、誤差5nmの位置決めを実現しているわけですが、同時に毎秒400mmというスケール限界の高速動作も両立できるというのが、この技術のすばらしい成果だと思います。
私たちは、さらなる研究を続けてサブナノメートルクラスの位置決め技術にチャレンジします。
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