− 昨年のISSCC※2 2006で発表された非接触型ICチップは、すでに0.15mm角、厚さ7.5μmのサイズを実現していました。それだけでも驚きですが、今年2月のISSCC2007で発表された新チップは両辺0.05mm、厚さ5μmと、面積比では9分の1にまで縮小されたと聞いています。またまた世界最小記録の更新ですね。
※2 ISSCC(International Solid-State Circuits Conference:国際固体素子回路会議)。最先端の半導体技術の発表が行われる国際会議で、“半導体技術のオリンピック”とも呼ばれている。毎年2月、サンフランシスコで開催
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宇佐美: 今回、動作確認に成功した新チップは、日立が事業展開を進めている0.4mm角の「ミューチップ」と同等の動作機能を保ちつつ、さらなる小型化を実現したものです(写真)。0.4mm角の「ミューチップ」と比べれば、今回のサイズは64分の1に相当します。ここにサンプルを持ってきましたが、見た目は“粉”そのものなので、1個1個を確認するのは難しいでしょう(笑)。
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(写真)0.05mm角になった「非接触型ICチップ」と髪の毛の比較
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− 確かに黒い粉末、それも非常に細かな微粒子としか言いようがありませんね。この1つ1つが非接触型のRFIDチップだとは信じられません。
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宇佐美: 今回の小型化は、90nm(ナノメートル)での微細なSOI技術※3と、電子線描画によるメモリー技術を用いることで実現しました。ISSCCでは審査対象に独創性や将来性を厳しく求めますが、われわれ半導体の研究者にとって大きな目標であるこのステージで、2年連続その先進性が認められ、発表できたことを非常に誇りに思っています。
※3 Silicon on Insulatorの略。SOIプロセスではシリコン基板上にまず絶縁層と単結晶シリコン層を形成(これをSOI基板という)し、このSOI基板上にトランジスタを形成。トランジスタの間隔を縮小しても素子を分離できるので、チップの小型化に有効
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− 具体的にはどのような方法で、この小ささを実現できたのでしょう。
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宇佐美: 基本は、回路設計のシンプル化を追求したことにあります。「ミューチップ」の機能を維持しながら、回路を1つ、また1つと減らしていく。そんなつめに灯をともすような努力を継続しながら、ようやくここまできたという感じですね(笑)。
また一方では半導体の微細化も進んでいますし、メモリーに電子線描画という先端技術を適用したのも重要なポイントです。ここまで小さなメモリーに従来の方法でデータを書き込もうとすると、書き込む際の高い電圧でトランジスタが壊れる可能性が高くなります。しかし電子線描画装置を使うことで書き込み回路が不要となるため、信頼性の高いメモリーを容易に作ることができる。このアイデアに着目したことがISSCCでも高く評価していただいた理由の1つです。
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− 2005年に開催された「愛・地球博」の入場券にも採用されたように、すでに「ミューチップ」は紙に入れても使えるほどの小ささを実現しています。それでもさらに小型化を追求してきた理由とは何でしょう。
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宇佐美: 信頼性の向上が目的です。私は以前から講演会などで、「チップサイズは私の趣味で小さくしているわけではありません」と言い続けてきました。趣味ではなく、必要だから追求し続けるのだと。
なぜならRFIDというのは、将来的に毎月1億個から2億個という膨大な数が市場に出て行く。だからいくらエラー率を極小化しても、出る数が圧倒的なぶん、信頼性も圧倒的に上げていかなければならない。紙というのはどうしても、折り曲げられることが避けられない媒体です。また紙には入場券やカードのように、ある程度の厚さがあるものから、コピー用紙や紙幣のように薄いものまで、たくさんの種類がある。そのすべてに非接触型ICチップを適用し、流通させていくには、より小さく薄くを追求し続ける必要があったのです。今回開発した0.05mm角のチップは、本当の意味で、ようやく“紙にすき込めるサイズ”となりました。折り曲げても壊れないという当初の目標はクリアできたのかなと思います。
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− 何よりも信頼性の高い、強いRFIDを作っていくのが目的だったということですね。しかしこのサイズになると、1枚のシリコンウェハから作れるチップ数も膨大なものになりますね。
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宇佐美: 量産中の0.4mm角の「ミューチップ」と比べれば、約60倍の生産効率アップが期待できます。実はここでも電子線描画が大きな効果を上げています。通常、半導体はその配線パターンをガラスマスクという媒体に電子線で描画し、それをシリコンウェハに転写する形で作ります。しかし今回はガラスマスクを使わず、電子線で直接、シリコンウェハ上にIDパターンを描画する技術を開発しました。「ミューチップ」は、その1つ1つが世界に2つとないIDを持つことが特長です。そのため、高額なガラスマスクを作っても、そこに書き込まれたIDパターンを再び使うことはできない。ならば最初からガラスマスクを使わなければコストも下がる。“一石二鳥じゃないか”と考えたのです(笑)。
また電子線描画装置は一般的に処理スループットが遅いと言われていますが、今回はチップが超小型なので、10,000個のチップを1つのグループとして約5mm角のチップとみなし、1回の電子線描画で処理する方式も開発しました(図)。これで大幅に効率がアップし、高速に処理することができます。もちろん1つのウェハから作れる量もけた違いに多くなるので、量産化した際には今まで以上にチップのコストを下げることが可能になるでしょう。
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(図)電子線技術による超小型の実現
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− 小型化とともに、生産性向上とコスト削減の技術も確立できたわけですね。
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宇佐美: 信頼性、生産性、コスト。すべてのバランスがとれていないと研究成果は実用化には至りません。またチップのコストが安くなればなるほど、RFIDビジネスとしての収益性が上がることも忘れてはなりません。単価が下がり、それを作って売る側は大変じゃないかと思われがちですが、実はそうではない。RFIDは出ていく数が膨大なぶん、原価低減に成功すれば収益性もグンと上がる。その意味でも早く0.05mm角非接触型ICチップの量産化をめざし、われわれのボーナスアップも期待したいですね(笑)。
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