1995年に日立製作所中央研究所が開発した光トポグラフィ。これは近赤外光を頭部に照射し、その反射光によって大脳皮質の動きを探るという研究だ。ヘモグロビンが近赤外線を吸収する特性をもっていることに着目し、ヘモグロビンの増減、つまり脳内の血流の活性/不活性を、リアルタイムに画像化できる技術である。これが画期的なのは、微弱な光線を利用するため、人体への影響がほとんどないこと、また装置そのものもヘッドキャップを装着する程度で、簡易なシステムとなっていることが挙げられる。コミュニケーション機器への応用としてユビキタスシステム事業部が実用化を推進したのが「心語り」(エクセル・オブ・メカトロニクス株式会社が2005年12月に製品化)。ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のための意思伝達装置で、Yes/Noを表示することができる。
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光トポグラフィを、さらに広範な領域でビジネスに結びつけることは可能だろうか。販売・営業の発想を踏まえ、新しいプランを模索しているのが新事業開発本部の長谷川清だ。肩書きはコーポレート・ビジネス・クリエータ(CBC)。CBC制度は、新ビジネスのプロジェクトリーダーを社内公募する新しい試みで、長谷川はその第1号だ。クリエータという一語に、新事業開発本部、ひいては日立の意気込みが感じられる。
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「日立には優秀な研究者が大勢いる。その研究開発をマーケットの要請とうまく結びつけることで、今までになかったような新しい製品を生み出すことができる。新事業開発本部は、そのような企図から始動した部署なんです」
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光トポグラフィは新しいステージに進みつつある。2006年にはブレーン・マシン・インタフェースの原理実験に成功した。脳内で暗算や暗唱を行ってもらい、前頭葉における血流量を測定。その信号を利用し、鉄道模型を駆動、停止することに成功した。
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「応用範囲には大きく二つの方向性があると思っています。医療・福祉分野では『心語り』のように各種機器を操作することが困難な方々のための製品を開発していきたい。エンターテインメント分野では、ナンジャタウンの『前頭葉のほこら』のように、脳の活動をビジュアル化すること自体に面白さがあるんじゃないか……。そんなふうに考えています」
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たとえば、簡単な計算をしたり、音読をしたりといった「脳トレ」関連のゲームソフトがブームとなり、老若男女、幅広い層から支持されている。このようなゲームと連動し、脳の状況をリアルタイムで表示するというアプローチもありうるだろう。
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「さらに、将来の少子高齢化の深刻な状況を考えると、脳の発達に基づく脳科学と教育という日立発のコンセプトが、学術的にも産業的にもとても重要であると考えています。この、本質的な領域に光トポグラフィ技術を応用していけると考えています。応用範囲は豊富にあるんですよ」
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2010年に日立製作所は創業100周年を迎える。長谷川のビジネスプランは、脳科学やロボット工学の知見、また、エンターテインメント産業との緊密な連携を視野に入れつつ、来るべき100周年に向け、民生分野での実用化を目指している。21世紀における「技術の日立」。それを社会にアピールするトピックの一つになることは間違いない。
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「プロジェクトはスタート地点に立ったばかり。どういうかたちになるかはわかりませんが、光トポグラフィを応用した新製品が、体重計や血圧計のように、一家に一台、常備される日を目指しています」
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