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開発者に聞く



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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
エレベーター内の異常行動を高精度に検知する学習型画像監視技術
■ 「事後」ではなく「即時」に対応できる監視技術

− 今回開発された技術は、監視カメラの役割を今までとは大きく変える可能性を秘めているようですね。
三好: はい。これまでの防犯・監視カメラの役割は、何か事件や事故が起こった際に、そのカメラがとらえた映像を後から分析して、当時の状況を確かめる、犯人の手がかりをつかむといった、事後対応に使われるケースがほとんどでした。公共施設やマンション、エレベーター、街角といったいたるところに監視カメラが据え付けられるようになった今では、その膨大な量の映像を常に人が監視して、問題行動を見つけるのは、ほとんど不可能になっているからです。
 これに対し私たちは、事件や事故が起きる瞬間をカメラをとおして自動的に検知することで、被害を最小化するための注意喚起を行ったり、監視者に迅速な行動をうながす技術を開発したいと考えていました。つまり「事後」ではなく「即時」に対応できる監視技術ということです。その意味では、今までにない大きな可能性を持っていると思います。
中村: この技術をまずエレベーターの監視カメラに適用したのは、近年マンションなどの共同住宅のエレベーター内で、強盗やちかん行為といった、さまざまな犯罪が増える傾向にあるからです。エレベーター内での住民の方々の不安を解消し、犯罪を抑止するには外部からのモニタリングが必要ですが、そこで人間の目の代わりに異常行動に目を光らせる役割をITでサポートしようと考えたのです。

■ 画像ではなく、動きの特徴変化を251種類に分類

− どのような仕組みで異常行動を検知することができるのでしょうか。
正嶋: まず正常行動の特徴をコンピュータに学習させ、データベース化します。そして、それと異なる行動の特徴をカメラがとらえ、一定値を超えた場合は「異常」と検知する―これが基本的な仕組みです。動きの特徴をとらえる部分には、独立行政法人産業技術総合研究所が開発した「立体高次局所自己相関特徴」という技術を適用しています。これは、カメラから取り込んだ画像の中の“動き成分”を抽出し、画像全体から切り出された3×3×3画素の立方体の中での変化点を251種類に分類するというもので、正常な点の分布とそうでない点との差が統計処理で明確に示されるのが大きな特長です(図1)。

図1 異常行動検知技術の仕組み
※クリックして拡大図をご覧下さい
中村: これまでも異常行動を検知する技術はありましたが、その多くは画像そのものを解析する方法でした。人の動きの大きさや速さ、モノの形や色といったパターンをあらかじめモデル化し、それにマッチングしたものを「異常」として検知するのです。しかしこうしたアプローチでは、検知できる内容が固定化されるため、例外がたくさん発生してしまいます。そのため適用範囲も狭くなり、汎用性もほとんど望めない弱点があったのです。
三好: 従来の方法は、あらかじめ膨大な量と種類の異常行動画像を収集し、詳細なモデルを構築する必要があります。ですが最近はプライバシー侵害などの問題もあって、それに見合うデータ収集は実質的に不可能です。これに対し今回の技術は、比較的容易に収集できる正常行動を基準に、今現在の動きの特徴量が、そこからどれだけ離れているかを見ようとする。つまり、異常行動そのものはまったく定義しなくていいわけです。
− モデル化する必要がないから、例外も発生しないということですね。
三好: ええ。そのため、身振りの大きな“あばれ”などの行動だけでなく、ナイフを静かに突きつける威嚇行為、あるいは“ちかん行為”など、比較的動きの小さな行為も安定的に検知することができます。体操や屈伸などのように動きの大きな行動も、正常行動としてデータベース化すれば、誤って検知することはほとんどありません。
− 開発に当たって、どんな点で苦労されましたか。
正嶋: ベースとなった技術では、対象にまっすぐカメラを向けて撮ることが前提となっていました。しかしエレベーター内の監視カメラは斜めから俯瞰して見る形となっています。その視点の変化に対応した組み込みのノウハウと、より複雑な動作を分離するための実験の積み重ねが大きなポイントとなりました。
三好: もともとこのアルゴリズムは軽い計算量ですむのが特長ですが、マイコンに実装して、期待どおりの性能を実現するまでのチューニングにも苦労しましたね。

■ 急病の際にも、いちはやく検知して救出へ

− この技術はすでに、株式会社 日立ビルシステムが提供するエレベーター・メンテナンスサービス「ヘリオスウォッチャー」の一機能として提供されていると聞いています。そこでは実際にどのような機能が提供されているのでしょうか。
中村: エレベーターの乗りカゴ内に設置したカメラ映像から、さまざまな異常行動を検知し、音声による注意喚起や最寄り階・指定階への緊急停止を行うシステムとして提供されます。具体的には、暴行・威嚇やちかんなどの犯罪行為、閉じ込め故障の要因となる“あばれ”などをリアルタイムに検出し、音声で注意喚起を行いながら、緊急度が高い場合は乗りカゴを最寄り階に停止させ、ドアを開きます。また、急病などによるしゃがみこみや倒れこみ、長時間の乗車といった滞留行為も検出し、同じように音声での注意喚起や指定階での停止、カスタマーセンターと連携した確実な救出へとつなげることができます(図2)。

図2 「ヘリオスウォッチャー」で提供されるサービス内容
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 万一、犯罪行為が行われたり、一人で乗っていて身体の具合が悪くなっても、すぐに状況を察知して被害を最小化できるわけですね。
正嶋: そうですね。また、「このエレベーターでは何もできないな」と、次なる犯罪行為への大きな抑止力ともなるはずです。ボタンをいくつも押したり、酔ってドアを蹴ったりといった、エレベーター内のいたずらも減らすことができるでしょうね(笑)。ちなみに「ヘリオスウォッチャー」にはあらかじめ、エレベーター内でよく起こる正常行動や、異常行動と間違われやすいパターンがデータベース化されていますから、導入後すぐに安心・快適なエレベーター環境をご利用いただけます。

■ より幅広い空間とプロセスも検知できる技術へ

− 今後の展開は。
中村: この学習型画像監視技術は、エレベーターだけでなく、マンションやビルのエントランス、駐車場、駐輪場、エスカレーターや室内などにも適用できると考えています。ただ、より幅広いエリアでの安全・安心を支えるソリューションとして発展させていくには、エレベーターや室内のような閉じられた空間での異常行動を検出するだけでなく、対象がどこからきて、どんな行動をして、どこへ行ったかという面的な広がり、前後のプロセスまで含めて分析することが必要になってくるでしょう。具体的には複数のカメラにまたがったデータの収集と多面的な分析・判断が求められてくるのです。そこまで踏み込むことが、今後の大きなテーマになってくると思います。
− まだまだ新たなチャレンジが続きそうですね。これからの展開に期待しています。本日はどうもありがとうございました。
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