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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
ALS患者のための意志伝達装置「心語り」

われわれは日立中央研究所で開発された光トポグラフィに注目しました。光トポグラフィは近赤外線を使って脳の血流の変化を測定します。ALSは脳活動は正常ですから、脳血流を使って意志を判定できるのではないかと考えたのです。'99年、中央研究所が研究に着手、'02年にはエクセル・オブ・メカトロニクス株式会社(以下、エクセル)に依頼した試作機が完成し、「心語り」と名づけました。
操作の手順はこうです。患者さんの額に、脳血流を測るセンサーをつけます。そして質問をし、答えが「はい」なら患者さんには頭の中で速いテンポで暗算をしたり、歌を歌ったりしてもらう。すると前頭葉が興奮して血流量が増える。「いいえ」なら、きれいな景色を思い浮かべたり、ゆっくり歌を歌ったりしてリラックス状態を保ってもらいます。
センサーは、近赤外線を投射し、脳の表面付近で反射して戻ってきた光量を測定します。この光は血液に吸収されるので、血流が増加すると吸収量が増え、戻り光量は減少する。それをグラフにすると、血流が増えた部分がぐっと沈み込む形になる。その変化で、イエス/ノーを判別しようとしたのです。
ところが実験を行ったら、正答率が60%しかない。これでは使えないと、鹿児島大学工学部の内藤正美教授(現・東京女子大学教授)にデータの分析をお願いしました。そこでわかったのは血流量の「揺らぎ」です。リラックス状態では、血流量に微妙な揺れが見られる。振幅は小さいが、揺らぎ回数が多い。一方、興奮したときは、血流量の振幅は大きいが、揺らぎ回数は少ない。
この「振幅」と「揺らぎ」という2軸を使って判定することによって、イエス/ノーを判別する正答率が格段にアップしたんです。
あとは、私が装置を携え全国各地の患者さんを訪ね、ひたすら実証実験を重ねました。これまで50人くらいの患者さんにデータをとらせていただきました。というのは、血流量の出方には個人差が大きいからです。一人一人、データをとって、イエス/ノーを正しく判別できるようなモデルデータをつくっていく。その積み重ねで、私自身、個人に応じたモデルデータをつくるノウハウを学んできました。その結果、正答率は80%になりました。
「心語り」は昨年12月にエクセルが製品化・販売を開始、すでに4人の患者さんが使っておられます。
実は最近、米国の患者さんに請われて3人の患者さんを訪ねてきたのです。幸い実験は大成功で、日本では得られないノウハウを蓄積できたのも大きかった。これで海外の患者さんにも使っていただける道が開けました。
「心語り」はイエス/ノー判定のみですが、次の課題は、現在の回答時間36秒を5秒程度に短縮し、患者さんが文字を選択して自分の気持ちを伝えられるようにすることで、もうその準備を進めています。患者さんにとっては一刻の猶予もありませんから、一日でも早く実現できるよう努力しています。
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