− まず、今回の新技術を開発したねらいからお聞かせください。
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玉田: エレベーターサービスの本質は、利用者とビルオーナー、それぞれの満足度を高めることにあります。近年、都市再開発などで新設されるさまざまなビルが付加価値を向上させるため、大規模化、高層化の傾向が強くなっています。そこでは複数の“かご”(利用者が乗る箱)を、待ち時間に配慮してバランスよく運行させることが、利用者の満足度とテナントなどの入居率を高めるための重要な要件となります。しかし設置面積の制限などで、1つのビル内で、まとめて管理されるかごの平均数は減少傾向にあります。このような状況において、より少ないかごをいかに効率よく運行できるかが重要なテーマになっていたのです。
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吉川: ここでいう、複数のかごを1つのグループとしてとらえ、待ち時間に配慮してバランスよく運転する手法を、エレベーター業界では「群管理」と呼んでいます。日立は1950年代から群管理開発に取り組み、72年には呼びボタンを“ポン”と押せば、すぐにどのエレベーターが来るかを乗り場の表示ランプで“パッ”と知らせる業界初の「即時予約システム」、通称“ポンパ”を世に送り出しました。そして83年には予測精度を向上させた「交通流学習制御」、97年には遺伝的アルゴリズムの適用で各階ごとに優先度や混雑度も制御できる「階床別個性化知能群管理」といった、常に業界をリードする高性能群管理システムを製品化してきたのです。
しかし、いくら優れた群管理でも、一時的に利用者が増えると、かごが途中で数珠つなぎとなって同一方向に運転する、いわゆる“だんご運転”が発生してしまいます。
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− 会社の始業時間やランチタイムには、どのビルでも見かける光景ですね。
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吉川: そうなんです。そこで今回は何よりも時間帯によって待ち時間が短かったり長かったりといったバラつきをなくし、混雑した状況でも長待ちの発生率を少なくする、新しい群管理を開発しようと考えました。
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玉田: つまり利用者の皆さんに、どんな状況でも均等なサービスを提供することで、待ち時間とストレスを低減する、言い換えれば「待ち時間の質の向上」を図ることが今回の大きなコンセプトでした。各かごを時間的等間隔に配車すればいいことは昔から知られていましたが、従来はその瞬間のかごの位置関係で制御を行っていたため、混雑状態が継続するとなかなか“だんご運転”を解消しにくい傾向があったのです。
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吉川: そこでわれわれは「今現在のかごの位置」ではなく、そのかごが「将来どう動くのか」を予測して、それに合わせて等間隔に制御すればいいのではないかという考えにたどりつきました。将来的なかごの軌跡、つまり時間軸上のルートを予測して、かごを等間隔に制御するのが「将来予測目標ルート制御」という新しい制御概念です。
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図1 エレベーター等間隔制御の進化
※クリックして拡大図をご覧下さい
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− それぞれのかごの位置が時間的に等間隔にあれば、どの階で呼び出されても、より短い間隔で、かごを到着させられるということですね。
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吉川: そういうことになります。実際にわれわれはエレベーターを呼びに割り当てる組み合わせについて、約10100通りというぼう大な組み合わせの中から最適に近いと考えられる組み合わせをコンピュータで評価する実験を行いました。その結果、待ち時間が最小となる場合のかご軌跡は、やはり時間的等間隔に近い軌跡になることがわかったのです。仮にエレベーターの神さまがいて、これから発生するビル内すべてのエレベーター利用状況がわかっていたら、こういう制御をするだろうということで、これを社内では「神の群管理」と呼んでいます(笑)。この結果に基づいて、将来のかごの位置を等間隔に配車するような「目標ルート」を定めたわけです。
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鳥谷部: しかし実際には、何時何分にどの階で利用者が呼びボタンを押すかはわかりません。そこで新規の呼びボタンが押されたら、現状の交通需要と学習結果をもとに、各かごに対して「予測ルート」というものを作成します。次に基準となる「目標ルート」と「予測ルート」の偏差を算出し、「目標ルート」にいちばん近いかごを割り当てます。その結果、エレベーターの各かごは「目標ルート」に従うように誘導されるため、混雑時でも“だんご運転”が抑制され、待ち時間の短縮と長待ち発生確率の低減を実現することができるという仕組みです。
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− 目標・予測ルート間の偏差の算出とかごの割り当てを瞬時に行わなければならないという部分が重要なポイントになりそうですね。
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吉川: はい。混雑時には1秒の間に各階で多数の利用者が呼びボタンをパパパッと押すわけですから、その瞬間、瞬間に演算を行い、最適なかごを割り当てるのはたいへんな計算量になります。そこで最新型エレベーターである「FI-600」への実装に際しては、日立グループが開発した高性能RISCマイコン上で、ほかのかごの予測ルートを基準に時間的間隔を高速に算出するアルゴリズムを開発しました。これにより、従来機種に比べて平均待ち時間が5〜10%、また60秒以上の長待ち発生確率も6〜12%低減することに成功したのです。
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図2 運行軌跡と待ち時間の変化
※クリックして拡大図をご覧下さい
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そしてこれらのアルゴリズムを開発する際の膨大なシミュレーションや、従来の配車制御を進化させた「動的配車制御」という、利用頻度の高い階に重点的にかごを配車するアルゴリズムの開発では、ここにいる新人の村岡君にがんばってもらいました。
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村岡: 実はまだ入社1年目なのですが、今回はプロジェクトの途中から大きな仕事を任せていただき、先輩方にはたいへん感謝しています。私が担当した「動的配車制御」は、例えばホテルなら夕方のチェックインや朝方のチェックアウト、レストラン利用時などの交通流をシステムに学習させ、自動的にきめ細かくかごを配置してスムーズなエレベーター運行をサポートする技術です。将来予測目標ルート制御と並び、FI-600という大きな製品の誕生に貢献できたことを非常にうれしく思っています。
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