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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
細菌捕集から細菌DNA検出までを自動化する自動細菌検知システム
■ 手作業のため時間がかかっていた従来システム

− 細菌検知システムというと、一般的にはイメージしにくいものなのですが、実際どのような場面で使われているのでしょうか。
栗原: 食品メーカーや容器メーカー、外食産業、病院、医薬品メーカーなどで、安全な製品を生み出し、安心できる環境を維持するため、日常的に使われているものです。私たちディフェンスシステム事業部は国家レベルのセキュリティに加え、公共レベル、個人レベルのフィジカルセキュリティも担当しています。そのため、食品汚染の防止、食中毒や病原菌の拡散防止という観点から、こうした細菌検知システムも提供しているのです。
− これまでの細菌検知の方法では、何が問題となっていたのでしょう。
西川: 例えば食品メーカーなら、素材や工場設備の安全性を常に的確に把握していなければ、食品全体の安全性や品質をコントロールすることができません。そのため日々膨大な数の細菌検査を行っていますが、従来の一般的な方法では、まず素材のサンプル、あるいは捕集機という装置で集めた大気中のサンプルを研究所などに持ち込み、培養して検査、確定するまでに最低3日から1週間ほどの日数を要していました。このため賞味期間の短い食品や鮮度が重要な食品などでは衛生管理の方法に課題が残り、検査スピードの向上が求められていたのです。

図1 現状の細菌捕集・検知の流れ
※クリックして拡大図をご覧下さい
栗原: 最近は検査期間を短縮するため、細菌の中からDNAつまり遺伝子を取り出してターゲットの細菌の有無を確かめる方法が主流になりつつあります。それでもほとんどの工程が手作業なので、ある程度の熟練技術を持った人しか操作できないこと、また作業の過程でスタッフが細菌に汚染されるリスクもあるといった点も大きな課題となっていました。そこで私たちはMEMS技術をベースに、細菌の捕集から遺伝子の検出までの工程を自動化し、安全で容易に作業ができる、まったく新しいシステム装置を開発しました。

■ MEMSチップの適用でプロセス時間を大幅に短縮

− システム装置の概要を教えてください。
稲波: 空気中から細菌の捕集を行う捕集機と、細菌遺伝子の分析を行う分析機から構成されています。捕集機は基本的には掃除機のように大気中の空気を速い流速で吸引し、さらに流れ方向に工夫を加えセットされた「捕集チップ」内に細菌を濃縮した状態で捕集します。次にそのチップを分析機に装填すると、そこからサンプルが「分析チップ」に移動し、遺伝子抽出から増幅、検出までの工程を自動的に行う仕組みになっています。
 これまで熟練した作業者が行っていた10工程にわたる細菌捕集、15工程にわたる細菌遺伝子の検出を、それぞれ1つのMEMSチップで実現したのが最大の特長です。時間的には捕集から分析までが40分から2時間程度で終わります。
栗原: 装置そのものも大幅な小型化を図りました。捕集機と分析機の2台を並べても幅50cm、奥行き45cm程度に納まります。このため研究室内だけでなく、自動車などに積んでそのまま現場で捕集から検出までワンストップで作業することもできるようになりました。
− これまで1週間もかかっていた作業が2時間で終わってしまうのですか?
稲波: 従来、手作業で行っていたプロセスを、すべてチップ内に封じ込めて自動処理するシステムであること、また、かつてはシャーレなどで3〜4日かけて細菌を自然培養していたものを、DNAだけ抽出して2時間以内で10万〜100万個まで増幅できる技術を適用したことで、大幅な時間短縮が図れるのです。必要な試薬はあらかじめチップ内に封入されているため、複雑な作業が発生しませんし、廃棄物もチップのみで、手間のかかる器具の洗浄作業なども必要ありません。当然、検査スタッフへの病原菌などの汚染の心配もなくなるというわけです。

図2 自動細菌検知システム装置のフロー
※クリックして拡大図をご覧下さい
栗原: この圧倒的なスピードが、お客さまにとっては非常に大きなメリットになります。通常なら細菌検査は自社内に設備を持っていても早くて2〜3日、外部委託なら輸送を含めて1週間はかかっていましたから、食品を出荷して3〜4日後に問題があることがわかっても、すでに全国の市場に行き渡ってしまっているわけです。しかし今回の装置なら、まさにその日のうちに問題があるかないかの結果が出てしまう。最近はO-157をはじめ、非常に感染力の強い細菌が問題になっていますから、それらの汚染が出荷前にわかれば、食品の安全性という観点からも、非常に有効なリスク回避の手段として適用できるわけです。

■ スキルが不要なシステムで、使いやすさとコスト低減を実現

− 捕集から検査までが自動化されれば、検査スタッフの負担も軽くなりますね。
西川: 高度なスキルを必要としませんから、少しトレーニングすれば、どなたでも使えるようになります。装置自体も小型ですから、場所をとりません。その意味で、これまで外部委託に頼っていた企業でも自社導入の敷居は非常に低くなったと思います。
− コスト的にも安くなりますね。
栗原: 検査スタッフの人件費を考えても、3〜4日が2時間になり、なおかつ処理が自動化されるわけですから、当然そうなりますね。また、例えばレトルト食品メーカーでは製造後、検査結果が出る3〜4日の間、倉庫内に保管し、安全が確認されてから出荷するという方法をとっていますが、今後はそういった保管コストや人件費も大幅に削減されるでしょう。
− 時間短縮と自動化には、やはりMEMSチップの存在が大きなカギを握っているように思います。どのような工夫がほどこされているのでしょうか。
佐々木: チップのコストを下げるため、弁やポンプなどは一切作り込まず、すべて装置側の空気圧の変化だけで遠隔操作しているんです。それでいて、チップ内では2種類の液体を混ぜたり、同じ交差点で、あるときは真っ直ぐ液を通らせ、ある時は特定方向に液を曲げたりといった細かなハンドリングをしなければなりません。また、ガラスビーズやピラー(柱)でDNAを捕まえたり、余分なものを洗い流すといった非常に細かな作業を実現するため、チップ内の構造設計にはかなり苦労しましたね。

稲波: チップの微細加工はもちろんですが、例えば枯草菌や納豆菌といった、表面に堅い殻がある細菌の場合でも、物理的な力を加えて壊すのではなく、逆に栄養を与えてやり、みずから殻を壊して発芽させる方法を採用することでDNAを抽出しやすくしました。この技術の適用も他にはないアドバンテージだと自負しています。

図3 チップ、捕集機、自動分析機
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 市場からの反応はどうでしょう。
西川: 日本だけでなく海外のお客さまからも非常に多くの反応をいただき、正直驚いているところです。食品関係や細菌検査機関などはもちろんですが、ノロウイルス(小型球形ウイルス)や鳥ウイルスなどのウイルス検知に使いたいというお客さま、国連の安全保障関連機関、空港や地下鉄構内などの大気検査に使いたいというお客さまなどもいらっしゃいました。
栗原: まずは食品メーカーのお客さまに、ぜひお使いいただきたい装置ですが、いま西川が言ったように、集団感染のおそれのあるノロウイルスの検査、また空港や港湾などの重要施設でのセキュリティ検査などにも適用していけると考えています。国際的にも非常に注目を集めていますので、今後はより幅広い分野でのフィジカルセキュリティを実現する技術として、システムの強化とソリューションの拡充に力を注いでいきたいですね。
− 期待しています。本日はどうもありがとうございました。
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