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開発者に聞く



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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
3次元の地図上で洪水の動きを高精度に可視化できる洪水シミュレーション技術
■ 洪水被害のリアルな予測情報を提供

− 昨年は日本でもひんぱんに台風や洪水が発生し、人々の生活に多大な被害をおよぼしました。今回の技術は、こうした水害被害の防止に役立つものなのですね。
直野: 今年の7月1日に「改正水防法」が施行されました。もともと水防法は、自治体が水害に備えた体制を整備し、必要な場合には河川ごとに予報や警報を出して被害の発生を防ぐために作られたものです。しかし昨年は中小規模河川が局地的な集中豪雨などで氾濫するケースが相次いだこと、被害を受けた方々が災害弱者と呼ばれる、避難に時間が必要な高齢者に多かったのです。そこで改正法では中小規模河川流域における洪水情報を充実させること、ふだんからどれほどの危険が迫っているのか実感できる情報を提供することなどが盛り込まれました。私たち中央研究所は日本気象協会首都圏支社の皆さんと、精度の高い「洪水予報」を実現する技術を作ろうと長らく共同研究を行ってきました。その成果は今回の改正法が求める内容にも非常にマッチしていると思います。
− 開発した技術の内容を教えてください。
山口: 今回開発したソフトウエアは、大きく2つの技術で構成されています。1つは、中小河川の決壊区域でのリアルタイムシミュレーションをPC上で初めて実現した高効率シミュレーション技術、もう1つがGIS(地理情報システム)と連携した3D地図上での洪水可視化技術です。

■ 計算領域を最小化する高速計算アルゴリズム

山口: PCの計算能力で高速・高精度の洪水シミュレーションを行うには、計算対象となる格子(メッシュ)サイズを適切に設定し、いかに高速計算させるかが最も重要な課題となります。例えば中小河川の決壊は、格子サイズを50m四方に区切って計算すると良好な精度が得られるといわれています。しかし従来方式ではこの範囲で10時間分の推移を計算するのに、バッチ処理で6時間もかかっていました。これではリアルタイムに結果を出すことはできません。そこで私たちは、計算領域を削減することで大幅な高速化を図ろうと考えたのです。

図1 50メートル四方単位での洪水シミュレーション結果例
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 計算領域を限定してしまうということですか。
直野: ええ。従来は堤防が決壊し、洪水が発生して広がっていく計算を、切り取られた領域全体を使って行っていました。それがシミュレーションの世界では常識だったわけですね。しかし私たちは“それってムダじゃない?”と考え(笑)、シミュレーションの計算途中で、GISに計算する領域を広げてくださいと要求するアルゴリズムを作りました。つまり、堤防が決壊した時点では、堤防が決壊する領域の周囲のみを計算し洪水流が広がるのに合わせて隣の領域を足しながら続けて計算していく方法です。これによって計算量の最小化が図れ、従来6時間かかっていた計算を3分以内で達成できるようになりました。

図2 「水害情報システムのイメージ」
※クリックして拡大図をご覧下さい
− コロンブスの卵的な発想ですね。
直野:はい。GISとシミュレーションの世界の両方を知っていないと、なかなか発想できないアイデアだったかもしれません。格子サイズを細かくしたため、スピードだけでなく精度面でもいい結果が出ました。昨年発生した、ある洪水のシミュレーション結果を実際の現地調査結果と比較したところ、従来方式より約3倍の精度向上が図れていました。これらの要素によって、近年課題になっていた中小河川の決壊に対応する中規模区域のリアルタイムシミュレーションをPC上で初めて実現できたといえるわけです。

図3 「高速計算アルゴリズム」
※クリックして拡大図をご覧下さい

■ 洪水シナリオの途中変更も可能

山口: もう1つが、数値計算と同時にGISの3次元座標上でシミュレーションを可視化する技術です。3次元上でのシミュレーションには、実は4次元の情報が必要です。つまり一瞬の情報は3次元でも、時系列で出していますからもう1つ、時間軸が必要になってくる。私たちの研究グループでは早くからGISを4次元に拡張したデータ構造を考えて作っていましたので、その蓄積が今回の技術につながりました。これによって、洪水が拡大していく様子を時間軸をスライドさせながら、さらにその場で降水量や堤防決壊場所を変更したシミュレーションを自在に行うことができます。さまざまな条件でシミュレーションを行うことで、水害に弱いエリアや、比較的安全なエリアが直感的にわかる仕掛けとなっています。
− これまで自治体の防災担当の方々は、こういったシミュレーションやハザードマップ(被害予測地図)作りをどのような方法で行っていたのですか。
直野: 詳細なGIS情報や地図情報、上下水道などのデータを入手し、みずから分析するのは非常に困難です。そこでやはり土木コンサルティング会社など、専門的な情報と分析力を持っているプロフェッショナルに依頼されていたようです。それでも高性能なサーバでシミュレーションを行い、可視化できる画像として納品されるまでには数か月かかっていたと聞いています。

■ Windows PCのGUI上でいつでも容易にシミュレーション

− それがこのソフトを使えば、いつでもリアルタイムにシミュレーションできるわけですから、災害対策のコストもスピードも大幅に圧縮できますね。
直野: まずは、洪水発生時の行動計画立案やハザードマップ作りにお役立ていただけると思います。実際にこれまでWindowsのPC上で、わかりやすいGUIを使い、直接自分で洪水の様子をシミュレーションできるシステムは存在しませんでした。ですからマスコミへの発表以来、自治体はもちろん多方面の企業から非常に大きな反響をいただいています。
 このソフトは「株式会社 日立エンジニアリングサービス」が製品化を進めており、来年度から販売する予定です。また単に河川の管理だけでなく、下水をどのように張り巡らせるかなど、都市計画の基本的な情報インフラにもなりますので、ぜひ幅広いまちづくりにお役立ていただければと思います。
山口: ふだん生活していても、自宅の周囲の標高差というのは案外わからないですよね。しかしこのソフトを使うと、川の堤防の、ここから水がこうあふれてくると、こう回り込んでくるというのが非常によくわかるんです。ですからシミュレーション動画をケーブルテレビやインターネットなどにアップロードしておくだけで、「この周囲にはこういう危険がありますよ」という災害リスクを、ふだんから高齢者や子どもたちに、より鮮明なイメージで啓蒙できる―そういった災害教育にも役立てていただければ嬉しいですね。
− 本日はどうもありがとうございました。
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