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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
ログのみ同期転送で通信コストを削減する高信頼ディザスタリカバリ技術
■ 被災時のダウンタイムコストが膨大に

− 今回開発したディザスタリカバリ技術は、どのような市場ニーズから誕生したものなのでしょうか。
藤原: 日本はマグニチュード6.0以上の地震回数が、全世界における割合の中で20%以上を占める地震大国です。こうした広域災害によって基幹システムが停止すると、ビジネスの機会損失や原状回復などにばく大な費用が発生するため、あらかじめ遠隔地にリモートサイトを設置し、万一の際には業務を引き継ぐことができるディザスタリカバリ技術に、ここ数年大きな期待が寄せられています。
 2003年4月に米国の証券取引委員会(SEC)が発表した、金融機関のシステム保全ガイドラインでも、被災時には「1営業日以内にシステムを回復すること」「広域災害にも対応できるよう遠距離にリモートサイトを置くこと」が定められています。
鈴木: しかし、これらの要件を実際のシステムに当てはめてみますと、例えば東京−大阪間のような遠距離にメインサイトとリモートサイトを設置した場合、どうしても従来技術では乗り越えるべき課題が残されていました。メインサイトの被災時に業務を迅速に再開するには、100%のデータがリモートサイトに移行されていなければなりません。そのためには、常にメインサイトのDB変更に同期してデータを転送する「同期転送方式」が必要です。ところがサイト間の距離が長くなるに比例して、データを反映させるためのオーバーヘッドがメインシステムの性能を低下させてしまいます。
 一方、同期をとらずにデータを転送する「非同期転送方式」というものもありますが、これはオンライン性能を維持できる反面、データ転送中に災害が起こるとデータ欠損が発生し、迅速なシステム復旧を妨げてしまいます。
 このため従来は、ディザスタリカバリシステムの導入にあたって、データ保護かオンライン性能確保か、どちらか一方を選択するしかありませんでした。そこで私たちは、これらの課題をともに解決する、新しい技術を開発しようと考えたのです。

■ 新開発のハイブリッドデータ転送方式

− 新技術の内容を教えてください。
藤原: データ保護とオンライン性能確保を両立させる「ハイブリッドデータ転送方式」という技術を開発しました。データベースは通常、格納すべき値としての「データ」と、データを更新する際に、どのような変更を加えたかという「ログ」から構成されています。そのログの部分だけをリモートサイトに確実にコピーしておけば、メインサイトの災害時にもデータ回復を行うことができます。そういった観点から私たちは、これまでのようにデータとログ双方を転送するのではなく、ログの部分だけをリモートサイトに同期転送し、リモートサイト側では、そのログを使って簡易サーバがリアルタイムにデータ本体を更新するという仕組みを考えました。
− メインサイトのデータそのものは、一切転送しなくていいのですか。
藤原: リモートサイトの開設時には、メインサイトのDBを初期コピーすることが必要です。しかしその後はストレージ間のリモートコピー機能で、ログのみを同期転送していけば、双方のDBを常に同期した状態に保てるようになります。遠距離でも100%のデータ補償を実現するため、非同期転送方式で課題となっていたデータ欠損の心配はまったくありません。
− オンライン性能の維持についてはどうでしょう。
鈴木: ログとデータをともに送る「同期転送方式」が東京−大阪間で40%以下にオンライン性能を低下させてしまうのに対し、「ハイブリッドデータ転送方式」なら同条件で90%程度の性能を確保することができます。通常業務にも、ほとんど影響を与えずにすむことになります。
 本技術ではログしか転送していないため、オンラインへの影響が少なくなるのは当然なのですが、それ以外に実は、ログの出力・転送方式に新たな手法を適用したことも大きな効果を生んでいます(図1)。


図1 従来技術「同期転送方式」と「ハイブリッドデータ転送方式」の違い
藤原: 私たちはこの技術を「ログまとめ転送」と呼んでいます。乗り合いバスに例えると説明しやすいのですが、従来の「同期転送方式」では、メインサイトのDBがトランザクション(例えば、銀行での入出金処理など)を完了した際、そのログとデータを一人ずつバスに乗せてリモートサイトに運んでいたんですね。またログだけでなくデータも一緒ですからオンラインに負荷がかかりバスの往復の速度も遅い。
 これに対して「ハイブリッドデータ転送方式」では、バスに一人ではなく、たくさんの乗客、つまりはログをまとめて乗せるようにしています。トランザクションを完了した際、すでにバスが出発した後で、乗れるバスがいなければ、複数の乗客を、バッファ(一時的な記憶領域)という待合室に並んで待たせておいて、次のバスが来たときに一斉に乗せて出発させるというやり方です。ログだけの場合、バスが往復する時間というのはネットワーク負荷によらず、あまり変わりませんから、距離が伸びる分だけ往復する回数が変わってきます。しかしその中で1台あたり何人も乗客を乗せることができれば、非常に効率のよい転送が実現するわけです(図2)。

図2 ログまとめ転送の仕組み
※クリックして拡大図をご覧下さい

■ 通信コストを40%削減可能

− ログのみの転送なら、通信コストも大幅に減りますね。

鈴木: 東京―大阪間に相当する遠距離シミュレータを使った実験結果では、通信量を4割以下に削減することができました。データとログ双方を同期転送する従来方式に比べるとマイナス60%という非常に大きな効果です。これにより、コストの安い狭帯域幅回線でもオンライン性能を維持できるため、通信コストが40%削減でき、これまで回線使用コストの高さからディザスタリカバリシステムの導入に踏み切れなかった企業にも、広くそのメリットを提供することができると考えています(図3)。

図3 メインサイトのオンライン性能シミュレーション結果
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 今後の展開は。
藤原: 今回開発した「ハイブリッドデータ転送方式」には、SANRISEシリーズに代表されるストレージシステム、HiRDBというスケーラブルデータベースの双方を自社製品として開発・提供してきた日立ならではの技術とノウハウの蓄積が大きく反映されています。その強みを生かし、今後も幅広いお客さまのビジネス継続性向上を実現する技術開発に取り組んできたいと思います。
 例えば現在は、メインサイトとリモートサイトをつなぐネットワークが専用回線であることが前提となっています。しかしこの維持コストがまだまだリーズナブルとはいえない状況ですので、将来的には、転送性能が保障されない公衆回線や共用回線においても、いかに安定した性能とデータ保障を両立させるサービスを提供できるかを追求していきたいですね。
− 期待しています。本日はどうもありがとうございました。
※本開発には、文部科学省が実施するリーディングプロジェクト「e-Society基盤ソフトウェアの総合開発」のストレージ・データベース融合技術(東大、日立)で技術開発された成果が反映されています。
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