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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
人と対話して行動する 2輪走行ロボット「EMIEW」
■ 人とともに暮らすロボットの第一歩

− ロボットの開発では長い歴史を誇る日立ですが、EMIEWのような人間の形に近いロボットの開発は珍しいケースではないでしょうか。
玉本: いえ、実はそうでもないんですよ。1970年に日本で初めて計算機制御による人工知能ロボットを開発したのが日立のロボット製作の始まりですが、その後、産業用や医療用と並行して、人間の形に近い、いわゆるヒューマノイドロボットの開発にも乗り出していました。そして1985年には早稲田大学と共同で、メーカーとしては国内初の二足歩行ロボットを世に送り出し、同年の「国際科学技術博覧会(通称:科学万博−つくば’85)」にも展示されました。しばらくの間は事業に直結したロボット開発の時代が続きましたが、ここ数年でようやくヒューマノイドロボットへの社会的認知が進んできたことと、「愛・地球博」を舞台とした「次世代ロボット実用化プロジェクト」への参画機会を得たことで、1年前から正式に日立のロボット技術を結集したEMIEWプロジェクトがスタートしたのです。
 図1 身長130cm、体重70kgとのボディは、小学生をイメージしているだけあって愛らしい印象。
− ヒューマノイドロボットの多くは二つの足で動くイメージが強いのですが、EMIEWではあえて車輪を使っています。その理由は何でしょう。
玉本: EMIEWは「人とともに活動する」というコンセプトで作られたロボットです。人と同じ空間で、人の動きに合わせた速さで動くためには、現在の二足歩行技術では速度的にも機敏性でも対応できません。また、EMIEWを使う場としてはビルや公共エリアなどを想定していますが、そういった所はバリアフリー化が進んでいますので、かなりの範囲を車輪で移動することができる。そういった見地から倒立二輪移動機構を採用したわけです。
− 人と同じように行動するには車輪の方が向いているわけですね。
柄川:  EMIEWの最大速度は人の早足に相当する時速6kmで、人と同じスピードで動いたり、人より先行して廻り込むような行動もできます。このため一緒に行動する人に「遅い」「鈍い」といった不快感を与えません。二輪走行でありながら重心を保ち、細かな方向への機敏な動きができるのは、数年前に話題となったアメリカの立ち乗り電動スクーターと同じ「倒立振子」の原理を採用しているからです。ホウキを手の上に立ててバランスをとる、あれと同じ原理ですね。これをEMIEWでは、上半身を傾けるボディスイングと車輪を微妙に動かしながらバランスをとる仕組みに適用することで、全方向への機敏な動きに加え、最高速でも回転半径50センチの急旋回なども可能にしました。
− 当然、人や物体と衝突しないような仕組みも持っているわけですね。
玉本: EMIEWは、胴体に配置したレーザーレーダーで水平面内の物体との距離を測定しています。このレーダーは約8m先までにある物体の位置を検出し、また物体が移動中ならその動きを確認しつつ、衝突を回避するための経路を計算し、ボディを左右に傾け移動することで機敏に衝突を回避します。
 こうした技術は、実生活の中で人間とロボットが共存、協調していくためには必須となる機能です。EMIEWは従来型のヒューマノイドロボットと比べ、これらの点で特に高い安全性と運動能力を兼ね備えていると言っていいでしょう。
− 人混みのような複雑な環境でも問題なく動けるのでしょうか。
柄川: 究極のねらいは、そこにあります。向こうから歩いてくる何人もの人の動きを予測しながら、こちらからもスイスイ進んでいけるような安全性と機敏性。現在はまだ、そのレベルにまでは達していませんが、最終的には新宿などの繁華街でも走れるようにしたいねと皆で話し合っているんですよ。

■ EMIEWのモデルは小学生?

− 人と会話できるというのもEMIEWの大きな特長ですね。
玉本: EMIEWは将来的に受付案内やオフィス内の軽作業といった用途を考えています。そのためにも人と声でコミュニケーションする機能が欠かせません。そこで複数の聴覚センサーと視覚センサーを装備して、どの方向から話しかけられても、声のした方向を検知し、その方向を振り向いて相手の顔を確認しながら自然な声で返答することができるようにしました。例えば「トイレはどこ?」と問われたら、「あちらの出口を出て右です」といった具合ですね。なお、これらの人とのコミュニケーションする機能は中央研究所が担当しています。
− 複数の人に話しかけられても、うまく返答できるのでしょうか?
玉本: 大丈夫です。複数の方向に対して同時に音声認識するような作りになっています。1メートルぐらい離れた距離でも、それぞれの方向にいる人が何を話しかけてきたかを分析し、それぞれに顔を向けて答えを返すことができます。同時に聞き分けられる人数は周囲の騒音状況や使用可能な計算パワーなどにもよりますが、少々うるさい環境でも3〜4人の声の聞き分けは可能です。ただ、いくら同時に聞き分けられると言っても、複数の人に同時に応対することはできませんので、正面に近い人から応対し、脇の人には「ちょっとお待ちください」と言って待っていただくことになってしまいますけれど(笑)。
またEMIEWは、人間の腕の動きをモーションキャプチャーで計測し、再現してもいるんですが、これも表現力豊かなボディコミュニケーションとして、人間社会に受け入れられるための大きな特長だと考えています。
柄川: 人とのコミュニケーションという意味では、顔も含めたデザイン面にも力を入れました。
EMIEWは目鼻が動いたりはしませんが、表情が優しく見えるよう、卵型の顔と目鼻の位置、首の動き、ボディラインなど、デザイン本部の皆さんと相談しながら、われわれなりのこだわりを込めています。
− 背の高さが130cmということは、小学生くらいのイメージでしょうか。
柄川:コンパクトでありながら、人とコミュニケーションしやすい大きさが、まさに小学校高学年くらいのサイズだったんですね。私としては機能面、デザイン面も含めて、人と一緒に生活できる親しみやすさを打ち出したいと考えていましたが、その点でも非常に満足のいく“まとまり感”が表現できたと思います。
玉本:女性の方からは「カワイイ」という反応も多かったですよ(笑)。

■ 日立の技術をさらに進化させるロボット開発

− 今後の展開は。
玉本: これからロボットは確実に、社会の中である一定の役割を果たしていく存在になっていきます。一方、日立にはグループ会社も含めて幅広い技術がありますから、それらをロボットに搭載し、違う事業分野にも応用していけるような、「技術をインキュベーション(ふ化)する場」としても使って欲しいですね。
柄川: 今回のEMIEWは約1年という非常に短かい期間で作ったロボットです。それは裏返せば日立が過去から培ってきたロボット技術や周辺技術の蓄積がいかに大きかったかを物語っています。つまり持てる技術をフルに生かせば、良いものを間違いなく作ることができる。その意味では今後もロボット製作を通じ、日立の「モノづくり技術」をさらに高めていきたいと考えています。
− 「愛・地球博」での本格的デビューを楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
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