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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
姿勢センサを利用した携帯端末向け3次元地図表示技術
■ 利用者の姿勢を検知し、視線に合わせた3D画面を提供

− 携帯電話に代表されるモバイル端末の画面を使った歩行者向けナビゲーションサービスが普及していますが、今回の技術は、既存のサービスとどのような違いがあるのでしょうか。
鵜沼: 現在の歩行者向けナビゲーションサービスでは、携帯電話の画面上に2次元、つまり平面的な地図を表示し、歩行者の進行方向に地図を回転させながら誘導するという形が一般的です。しかしこの方法は、紙の地図の読み方に慣れていないと、自分がいまどこに立ち、どの方向に向かっているのか、決してわかりやすいスタイルとは言えません。周囲の状況と地図表示とが頭の中で一致しにくいからです。
 そこでわれわれは、携帯電話の表示画面を利用者の視点としてとらえ、そこに3次元の地図を表示すれば、右や左、上や下といった立体的な状況が直感的に理解でき、今まで以上にわかりやすいナビゲーションができるのではないかと考えました。
− 携帯電話の表示画面が、そのまま「覗き窓」、あるいはメガネのレンズになっているようなイメージですね。
高橋: ええ。ただし歩行者の視点に対応する3D地図を画面上に表示するには、常に携帯電話がどのような姿勢で保持されているのかを検知しなければなりません。そこでわれわれは加速度センサと磁気センサ、GPSなどを組み合わせ、利用者が携帯電話をどのような姿勢で見ていても、画面を通してリアルな3D地図を表示させることを最大の目標としました。
− 加速度センサと磁気センサは、それぞれどのような働きをするのでしょう。
鵜沼: 前後・左右・上下方向の加速度ベクトルが検知できる3軸加速度センサにより、重力ベクトル、つまりは「傾き」が3次元で、また3軸磁気センサでは地磁気ベクトルが同じく3次元で検知できます。これにより、東西南北といった絶対方位を含めた携帯電話のすべての姿勢状態を決定することができます。さらにGPSでは緯度経度によって自分の位置がわかりますから、これらを組み合わせることにより、自分の視点の位置や見ている方向を正確に検知することが可能となるのです。

■ 見たままの風景が画面の中に現れる

− 地図の見せ方としては、どのような工夫がなされているのでしょう。

高橋: 携帯電話を立てて持っている場合、視点の高さは地面から1.6m、視点と画面までの距離は30cmとして、姿勢や視点の位置から決定された3D地図をサーバからダウンロードしながら表示する仕組みを想定しています。ビルの上階が目的地の場合なら、画面を上に向ければそのまま画面内の地図もビルの上階を見せたり、傾けて持った場合は地図も斜めに見えるようにできます。さらに水平に持った場合は2次元地図の描画を行います。システム上の地図表示と実際の風景写真との対比を見ていただければわかりますが、それぞれ人間の視点と対応したリアルな表示がなされるので、非常にわかりやすい誘導が行えると思います。
鵜沼: 現状では、これらのユニットを携帯電話に内蔵できる形で開発したわけではなく、ノートパソコンと外付けのマルチセンサボード、GPSを用いた試作システムとして評価を行いました。ただし、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を活用した加速度センサと小型の磁気センサ、姿勢検知演算用CPUを1枚のボードに実装したことで、姿勢検知ユニットの小型化を図ることに成功しました。今後は携帯電話への搭載を考慮した、さらなる小型化を図っていくつもりです。

図1 マルチセンサボード
※クリックして拡大図をご覧下さい

■ GPSの効かない地下街でも位置検知を実現

− マルチセンサボードということは、加速度や磁気以外にも、何かを検知できるセンサが含まれているということですね。
鵜沼: 加速度と磁気に加え、ジャイロ(角速度)、気圧、温度の各センサが内蔵されています。これが今回の技術の大きな特徴でもあるのですが、これらのセンサを駆使することで、GPSが使えない屋内でも位置検知が行えるようになるのです。例えば加速度センサなら、人の歩幅の推定技術を使って「移動距離」を計算したり、歩いている、走っているといった「歩行状態」、あるいは立っている、倒れているといった「姿勢」まで検知できます。これは日立独自の「歩行動作認識技術」を適用したものですが、磁気センサやジャイロセンサを組み合わせれば、どの方向に向かったかという「移動方向」もわかってきます。ちなみにジャイロと磁気とでは、磁気が絶対方位を、ジャイロが相対的な角度変化を検知できるという違いがあります。

図2 加速度・地磁気センサを使った姿勢検知
※クリックして拡大図をご覧下さい
 さらに気圧センサを使えば、ビル内のエレベーターに乗って5階で降りたというような、フロア移動が検知できるという具合に、人の移動軌跡や上下の動きまでも知ることができます。さまざまなID情報を乗せたRFIDと連携させれば、より多様な使い方も期待できますね。
 これらの技術によって、自分が向いている方角や階段の昇降に応じた位置を把握することができるため、地下街や建物内であっても携帯電話の画面を見るだけで、目的地に迷うことなく到達することが可能となるわけです。

図3 端末の姿勢と地図表示例
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 屋外でも屋内でも使えるシステムというわけですね。
高橋: はい。屋外ならGPS、地下なら各種センサやRFIDなどとも連携し、常に自分の位置や状況を高い精度で把握できる、非常に汎用性の高い歩行者用ナビゲーションサービスが構築できると思います。
− 今後の展開は

鵜沼: 今の携帯電話にはカメラがついていますよね。あれを利用して、リアルタイムに撮った実写映像と、2次元の地図に書かれてある建物やランドマークの情報をリンクさせれば、3Dデータより軽い情報量でリアルな目的地表示や経路表示ができるのではないかと考えています。また、現状のセンサ技術では、磁場の乱れがあった場合などに姿勢検知に誤差が生じてきますから、それらを正確に補正する技術開発にも取り組んでいきます。

図4 実写映像を利用した案内画面(想定)
※クリックして拡大図をご覧下さい
− それにしても、これらの技術が小さな携帯電話の中にコンパクトにまとまれば、だれでも迷わずに目的地まで行ける、画期的なナビゲーションサービスが実現できるわけですね。実用化が楽しみです。今日はどうもありがとうございました。
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