− 将来的な交通状況を予測する技術というのは、どのような目的で必要とされているのでしょうか。
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熊谷: 国土交通省のデータでは、日本の渋滞による経済損失が年間12兆円といわれています。つまり、皆が最適な経路を通って1割でも渋滞が減れば、年間1兆2,000億円ものコスト削減が可能になる。同じくガソリンなどの燃料消費が1割減ると、原油計算で年間950万キロリットルが節約でき、道路負荷の改善も含めて、環境に与える悪影響を大きく減らすことができるわけです。また渋滞が減れば、時間に急がされたり、イライラを原因とする事故の確率も低くなります。つまり、効率的で快適、安全な社会を実現するために、精度の高い交通情報予測が欠かせない要素となっているのです。
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− 従来も予測技術は広く使われていたのでしょうか。
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横田: これまでの交通情報サービスは、道路上に設置したセンサーやFM多重放送によって、走行中のクルマのカーナビに渋滞状況や交通規制などを知らせるVICS※1が一般的でした。つまり「予測」ではなく「現況」を知らせるサービスですね。お盆やお正月などの渋滞予測は従来から行われていますが、これらは過去の蓄積データをもとに専門機関が入念に判断されたもので、自動化は難しく全国規模での予測というのは困難でした。また、交通情報の予測はもともと、公的機関でしか行えないという法律上の規制があったため、2002年の規制緩和以降ようやく、民間事業者の参入が認められたという経緯があります。
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− 今回開発した予測技術の内容を教えてください。
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熊谷: VICSなどで得られる交通情報から、この道路区間には“朝ピーク”と“夕ピーク”があるというような複数の「特徴パターン」を抽出します。そして各パターンの“強さ”を、曜日や季節、五十日(商習慣上の区切りにあたる五日、十日、十五日など5の倍数の日付)、天気といった「日種因子」に基づいた「予測モデル」として同定します。平日と休日とでは朝の渋滞の激しさは変わりますが、それは渋滞の“強さ”が変わっているだけで、対象となる道路区間の現象としては同じことですよね。そこで、交通情報を日付によって変化しない「特徴パターン」と、日付によって変化する「強度情報」に分解し、変化する成分だけを予測の対象とする手法を考えたのです。あとは実際に予測したい日の「日種因子」を入力し、再び交通情報として合成するだけで精度の高い予測を行うことができます。
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従来も民間レベルではさまざまな予測技術の開発が進められていましたが、それらの多くは交通情報と日種因子をダイレクトに結びつける手法でした。そこで精度を高めようと予測条件を細分化すると、統計処理のサンプルデータが不足して誤差がかえって大きくなる一方で、予測データベースが巨大になり、処理時間も長くかかるという問題がありました。
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しかし今回の技術は、データ量を従来手法の1/10に削減できるため、データのリアルタイム伝送と処理スピードの向上が実現する一方で、東京都内全域を例にすれば、従来の予測誤差が平均約25%だったものを約18%にまで改善できます。もちろん、VICSなどで得られる交通情報をもとに、これほど多様な「日種因子」に対応した全国規模での予測を実現したのも初のケースでしょう。
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図 予測プロセス図

※クリックして拡大図をご覧下さい
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− データ量を大幅に削減できた理由は何でしょう。
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横田: 道路交通の分野では従来分析用途でしか使われていなかった「主成分分析※2」を予測演算に採り入れたことでしょうね。これは熊谷のアイデアなのですが、聞いたとき“そうか、そういう使い方があったか”と正直、驚きました。
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熊谷: 私はまだ入社3年目で、この分野はまったく未知の世界でした。しかし、全国の路上センサーから5分や1分間隔で集められ、年間数十GBにもなる交通情報の特徴を、いかにコンパクトに集約できるかを考えた際、学生時代の専攻だったロボット工学の技術が適用できるのではないかと思いつきました。そこで画像処理などに使われている主成分分析の手法を当てはめてみたら、これが非常にうまくいったわけです(笑)。
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伏木: 実はVICSそのものも日立が開発に携わっていた関係で、データがどういう形で構成され、どう解析すればいいかといったノウハウを豊富に持っているんです。そういった従来からの技術の蓄積も大いに生かされていると思います。
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− 全国規模での予測といっても、VICSで情報提供されている道路は限られていますよね。それらについても予測は可能なのでしょうか。
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伏木: そのために開発したのが「プローブカーの分析技術」です。プローブカーというのは、実際に走っているクルマのGPSや車速センサーなどから位置や速度情報をネットワーク経由で収集し、現況の交通情報として利用するものです。VICSのない地域でも渋滞や所要時間などを予測するために欠かせない手段ですが、これまで何台のプローブカーがどれくらいの更新周期で情報を送れば、一定品質の情報が得られるのかといった定量的な事前検討を行うための技術が確立されていなかったんですね。そこで今回私たちは、目的とする地域、サービス水準に合わせたプローブカーシステムの仕様を、運用事業者に対して具体的に立案できる分析技術を開発しました。これにより、プローブカーシステムの導入にともなう費用対効果の明確な見積もりが可能となったのです。
また、先に説明した予測技術を応用して、プローブカーから得られる欠損の多い交通情報からも、特徴パターンを抽出して精度の高い予測が行える手法を開発しました。
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− つまり、VICSとプローブカーからの情報を合わせることで、どんなエリアでも交通情報予測を行うことが可能となるわけですね。
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横田: そうです。この2種類の技術開発によって、現況情報サービスから予測情報サービスへの「時間方向の拡張」、VICSなどの路上インフラに依存しない「空間方向の拡張」の双方が実現できるようになりました。日本全国を網羅した高精度な交通情報の提供が可能になるということです。これらの技術は将来的に、カーナビの経路探索や、物流業における効率的な配送計画など、今後のITS※3を支えるコア技術として活用されていくでしょう。またすでに、この予測技術を用いて携帯電話を対象とした予測情報サービスも、顧客であるコンテンツプロバイダ企業によって昨年3月からスタートしています。
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− 今後の展開は。
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熊谷: これまでの交通情報は渋滞情報などの提供がメインでした。しかし今後は安全情報の提供が重要な要素になってくると思います。つまり、クルマの走行履歴や運転履歴をもとに、事故が起こる際の危険な状況を統計的に割り出して、事前にドライバーに知らせる―そういった安全支援サービスの開発も進めていきたいと思います。
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− 期待しています。本日はどうもありがとうございました。
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※1 VICS:Vehicle Information Communication System=道路交通情報通信システム
※2 主成分分析:相関関係にあるいくつかの要因を抽出し、新たな変数(主成分)でその特性を求める方法。
※3 ITS:Intelligent Transport Systems=高度道路交通システム
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