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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
世界最多の16値多値変調による40ギガビット/秒 光伝送技術
■ 超大容量光伝送時代に向けた多値変調技術

− ここ数年、光ファイバ伝送の大容量化が限界に近づいてきたと言われていますが、それはどうしてなのですか。
菊池: インターネットの情報量が急増している現在、通信業界では今後5年〜10年先まで見越した大容量化に、いかに低コストで対応できるかを模索し続けています。都市内や都市間を結ぶ光ファイバネットワークではこれまで、大容量化を目指す1つの方法として、「波長数の増加」を行ってきました。しかしその数が100を超えた段階で限界に突き当たってしまったのです。また一方では、光のオン・オフで情報伝送を行う従来の「2値振幅変調」でも高速化を追求してきましたが、こちらも40ギガビット/秒までオン・オフ速度を速めた段階で、限界に近づいてしまいました。その結果、業界内では早急に光ファイバ伝送のさらなる大容量化を実現する新技術が求められていたのです。
− そのブレークスルーが「多値変調」技術なのですね。
菊池: そうです。多値変調は長らく無線通信の分野で用いられてきた技術で、光や電気の波を送る時間のタイミングである「位相」と、強さを示す「振幅」、またはそれらの組み合わせを利用して、一度により多くの情報を送る方式です。無線通信の世界では1970年頃から4値の変調が始まり、現在は最大1024値の伝送までが実現されています。この多値数が増えるほど、単位時間に送ることのできる情報量が増えることを意味し、4値なら伝送量を2倍、8値で3倍、16値で4倍に増大することができます。


図1 振幅と位相の変調とは?

※クリックして拡大図をご覧下さい
 もう少しわかりやすく説明しますと、波の周期を4分の1ずれたもの、2分の1ずれたもの、4分の3ずれたものも合わせて4通り用意して送信すれば、今までの「2値振幅変調」に比べて2倍の情報が送れるようになりますね。これが4値変調ということになります。
 しかし光伝送の世界では、これまで光ファイバの伝送容量自体に余裕があったため適用が遅れ、1997年頃からようやく4値が出始めました。日立はこの間、長距離光伝送技術で培ってきたさまざまなノウハウを生かしながら、独自の多値変調方式に取り組み、2003年には位相4値に振幅2値を組み合わせた世界最多の8値を、そして2004年にはさらに振幅を4値に変調した16値の多値光変調方式を実証することができたのです。

■ 信号点を同心円状に配置する独自方式を開発

− 1本の光ファイバで伝送可能な情報量が8値で3倍、そして今回の16値では4倍に拡大したことになるわけですね。こうした世界をリードする技術開発を成し遂げることができた背景には、どのような技術開発があったのでしょう。
関根: 最も大きいのは、振幅と位相の異なる信号点を同心円状に並べる手法を考案したことです。これが、今まで10ギガビット/秒以上の高速光通信で8値以上の変復調が困難だった壁をうち破り、今回の16値も実現することができた重要なポイントです。
− これまでの変復調方式にも限界があったということですか?
佐々木: 従来は、光信号の振幅と位相を同時に多値信号で変調すると、位相信号を復調する際に変調した信号どうしが干渉してしまい、受信できない問題が発生していました。無線の場合は信号源に電気の発振器を使いますから雑音が非常に少ない。だからこそ1024値といった変調も実現できていたんですね。ところが光の場合には光源が角度方向に非常に大きな雑音を持っている。これを「位相雑音」と呼びますが、無線のように信号点を格子状に配置して情報を増やしていきますと、信号が互いに重なり合い、見分けられなくなってしまうのです。


図2 8値を越える多値変調では、振幅と位相の
組み合わせ方(信号点の配置)が重要

※クリックして拡大図をご覧下さい
 そこでわれわれは信号点を同心円状に配置し、振幅変調成分と位相変調成分を直交させて干渉を減らす、独自の変復調方式を開発したのです。振幅と位相を独立して変調させれば、多少角度方向に雑音があり、信号点がぼやけてしまっても、互いに重なり合わずに正しく情報を伝送することができるというわけです。
− 同心円状に配置するというアイデアは、それまでだれも提唱していなかった?
関根: そうですね。だれもトライしていなかったというのが正解でしょう。光の位相を使う方法は非常に複雑なため、従来は振幅を使わず位相だけを4値に変調して容量を増やそうという流れが強かったのです。そこにさらに振幅も増やそうというのは最初から「ちょっと無理だよ」といった雰囲気がありました。
 同心円配置は最初にわれわれが考案したものなのですが、突然ひらめいて、やってみたらうまくいったというドラマのような話は、この世界にほとんどありません(笑)。
 結局は、考えられることすべてを徹底的に試してみた結果、初めていいアイデアを見つけることができたということでしょう。


図3 多値信号の光強度波形(振幅が4値となっている)

※クリックして拡大図をご覧下さい
− 菊池さん、そうなのでしょうか?
菊池: そのとおりです(笑)。みんなで苦労しながら地道な研究を続けてきた結果、最後に残った方法がこれだった、ということですね。あとは10年以上日立がやってきた長距離光伝送技術で培ったノウハウがうまく噛み合い、いい結果が出せたのだと思います。
佐々木: 学会で発表した際、他社の人が「とてもきれいな波形ですね」と褒めてくれました(笑)。これまでも、きれいな波形を作れば受信できるのは理論的にはわかっていましたが、現実問題として今ある部品を使って理論と同じような波形を作るのは非常に難しいことなのです。それが実験の結果、間違いなく実証できたということですね。

■ より高効率の多値変調方式を目指して

− この技術を10ギガビット/秒の光伝送に使えば、4倍の40ギガビット/秒が送れることになるわけですが、これは従来設備にも適用できるものなのでしょうか。
関根: 従来の2値方式のまま10ギガから40ギガに容量を上げようと思ったら、高速の受信器に取りかえる必要があります。しかもスペクトル(波長ごとに分かれた光の色の幅)が4倍になってしまうため、今まで使っていた10ギガ用の波長多重装置を通らなくなってしまいます。それに対して本方式は、スペクトルの広がりが抑えられるため、そのまま10ギガ用の装置が使える可能性がある。まだ実験ではそこまで試していないため、今後そういった部分も含めてしっかりと検証していく必要があります。
− 今後の展開は。
菊池: 今回の実験成果を実際の光ファイバに適用して、本当に4倍の大容量伝送が実現できるのかどうかを実証していくのが最大のミッションです。同時に、多値変調方式が将来の大容量伝送に役立つことを学会や業界で啓蒙しながら、より高効率の多値変調方式や低コストで小型の光多値送受信器の開発に取り組んでいきたいと思います。
− 期待しています。本日はどうもありがとうございました。
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