





このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。
研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
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世界のパソコンの3台に2台がお世話になっている世界一の「縁の下の力持ち」がある
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■ 電気の通りをコントロールする不思議なテープ
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そもそも一体、「アニソルム」ってものは何だろうか。最先端を疾駆する方にそんな基本中の基本をうかがうのは気がひけるが、わからないものは仕方ない。
「言葉としてはAnisotropic Conductive Filmからきていて『異方導電フィルム』のことです」
はぁ。実物を見せていただくと何やらオープンリールのテープのような‥‥。
「アニソルム自体はテープ状のもので、両面テープみたいなものですね。異方導電というのは、ICと液晶パネルなどの電極同士を接続するときに、Z軸方向(垂直方向)だけ電気が通って、それ以外(X軸、Y軸)の方向は絶縁されることをいいます。ノートパソコンの液晶パネルには必ず駆動用のドライバーICが載っていて、それと液晶パネルを接続するために使うのが主な用途です」
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電気的な接続の話だった。電気の通りをコントロールできる不思議な接続テープ、というところだろうか。僕ら常識的には、電気的な接続というとすぐはんだを思い浮かべてしまうが、液晶パネルの接続にははんだは使えない由。何故なら電極と電極の間が40ミクロンと微細(ハンダは200ミクロン程が限界)だからだ。40ミクロンがどれほどのものかというと、髪の毛の直径が約80ミクロンだという。なるほど、日立化成はそういうものの世界シェアを60%も持ってましたか。
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何やらオープンリールのテープのような・・・
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■ 「等方」の失敗が、「異方」を生んだ
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「研究自体は80年代からですね。当時は液晶といえば電卓くらいにしか使われていなかった。ゼブラゴムという導電ゴムと絶縁ゴムをサンドイッチにした材料で接続してたのですが、これは500ミクロンピッチくらいが限界です。たまたま当社ではフィルム関係の材料をやってたので、偶然、異方導電フィルムが誕生したんです」
え、今、偶然っておっしゃいましたか?
「当社では、もともと異方導電を狙ってたわけじゃなくて等方導電を狙っていたのです。等方導電であれば四方八方に静電気を逃がすのに利用できますから、その方向を狙っていた。
等方導電を得るためには直径3ミクロンから5ミクロンの金属粒子をフィルム中に分散させるのですが、金属粒子の量をフィルムの特性を生かせるくらいに調整すると異方性しか出なかった。これは困ったと。つまり、失敗作だったわけです(笑)」
本当に偶然なのだった(!)。
実はそこら辺が「リクツ通りに決まってる物理と違う、化学の面白いところ」なのだが。
「当時の先輩方がお客様に『こんなものができちゃったんだけど‥‥』と言ったら『これは使える』という話になった。当時は液晶のことなど意識していなかったのですが、『ガラスにははんだが付けられない』『ゼブラゴムではピッチが狭くできない』という液晶パネルの問題点をこの材料はクリアできたということなんですよ」
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■ テーマは、100ミクロン以下の高精細化
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渡辺さん自身がアニソルムの研究開発にたずさわったのは90年以降だ。今から振り返れば、液晶パネルやICが本格的に使われ、情報革命が準備される絶妙のタイミングだ。
「僕が入ったときはアニソルムのピッチを100ミクロン以下まで高精細化するファインピッチ化(狭ピッチ化)と、信頼性に直結する分解能を上げることが課題でした。ICを直接付けるので高信頼性が要求されたのです」
まぁ、素人考えでも技術の方向性はわかる。より微細に、より信頼あるものに。僕はここで素人にしかできない質問を試みた。渡辺さんのチームの十何年を思いっきりハショるような質問だ。渡辺さんのアプローチしてきた「導電粒子を小さくする」「粒子の硬さを柔らかすぎず硬すぎない硬さにする」「単層だったのを二層にする」等々の話は難しかった(ゴメンナサイ)。いや、いろんなブレークスルーがあったのでしょう。そんななかでもとびっきりの、一番厄介だったブレークスルーは何ですか。それとも渡辺さんは技術のベクトルをよどみなく着々とおし進めて来られた?
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「一番てこずったのは接続温度の低温化です。分解能を上げるには性能を一方的に高めていけばいいのですが、温度は難しい。お客様は商品をまず倉庫へ入れますよね。つまり、『室温では固まらず、接続時にはより低温で短時間でパッと固まる』という都合のいい性質が経済効率の面から要求される。これは矛盾するテーマなんです。当時、我々はベースの材料にエポキシ系樹脂に触媒を加えて使っていたのですが、なかなかうまくいかず苦労しました。それから樹脂も触媒もガラリと変えて現在のものができたわけですが、それが何かはちょっと申し上げられません(笑)
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「縁の下の力持ち」の研究室を見せていただいた
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■ 5年半の雌伏が、半年で化けた
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エポキシ系樹脂自体、室温でひと月もつものは少ないという。まぁ、瞬間接着剤をイメージするとわかりやすい。言わば2液タイプの接着剤を混ぜた状態で固まらないまま数カ月もたせる必要があったわけだ。
「製品化まで6年かかったんですが、5年半はずっと失敗してまして(笑)。営業に『お客様に謝ってくれ』と言われたことがあるんです。『お客様の開発計画もあるわけだし、嘘ばっかり言うな』と。でも、お客様が期待してくれていると思っていたので、それに応えるために諦めたくなかった」
5年半ずっとダメだったものが、エポキシ系樹脂を捨てるブレークスルーから半年で製品化に至ったわけだ。これを「化ける」と表現しないで何としよう。世界中のノートパソコンの3台に2台の割合で使われている(!)、日立化成の、渡辺さんのチームの製品は、「化ける」化学の妙味が結晶化したようなものだ。
日立化成、ホントに面白いじゃないか。
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