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開発者に聞く



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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
リニアモーターの弱点をクリアした新発想新型直線駆動装置 「トンネルアクチュエータ」
■ 磁極間「トンネル」のなかで高速に稼働

− 半導体製造装置や精密加工機などでは、どんな場面でリニアモーターを適用した直線駆動装置が使われているのですか。
金: 例えば携帯電話の基盤には、小さい部品がたくさん並んでいます。それを人間の手で1つ1つ載せていくには限界がある。そこで今は、工業用ロボットが部品を正確につかんで運び、載せたり、位置決めしたり、穴を開けたりといった作業を行っています。従来これらXY軸の直線運動は、回転モーターとボールネジの組み合わせがメインでしたが、近年はリニアモーターへのシフトが急速に進んでいます。しかし、さらに高い生産性と微細加工が要求されるこれからの時代になると、リニアモーターにもさまざまな限界が指摘されるようになってきました。
− どのような問題があるのでしょう。
金: リニアモーターは基本的に、回転モーターを切り開いて平面に展開した構造となっています。このため、電機子と可動子との間に大きな磁気吸引力が働きます。この吸引力は必要とされる推力の5倍ほどにもなってしまうため、装置を支える各機構には高い剛性が要求され、精度を高くするほど大型で高コストな装置になってしまい、適用範囲も限られていたのです。
− そこで新たに考案したのが「トンネルアクチュエータ」ということですが、これは従来のリニアモーターとは違うものと考えていいのでしょうか。

金: そうですね。原理的にはリニアモーターの一種といえますが、通常のリニアモーターは磁極歯が可動子の片側に集中しているのに対し、新技術は永久磁石から構成される板状の可動子が上下からの磁極歯に包まれ、磁束の“トンネル”のなかを非接触で往復運動する構造になっています。
 磁極歯は天地で逆の極になっているため、上下の間に永久磁石が挟まれているような格好となり、片方に引き寄せられる性質がなくなる。つまり磁気吸引力が相殺できることになります。
 また、可動子上の永久磁石は、N極とS極を交互に配置するだけで簡単に構成できます。従来のリニアモーターのように鉄板にはる必要もありません。これにより、可動子と装置を支える構造が簡素化され、吸引力に負けない強度も必要ないことから、コンパクト化と軽量化が実現します。さらに、上下の磁極歯間に磁束が流れることから、エネルギー漏れも非常に少ない。電力を効率よく大きな推進力に変えられるわけです。



図 トンネルアクチュエータ基本概念
■ 加速度向上で生産性もアップ

− その推進力の増大が世界最高加速度といわれる40Gにつながったわけですね。
金: 今までどんなリニアモーターを適用しても加速度は20Gぐらいが限界でした。しかしトンネルアクチュエータは、可動子の軽量化とエネルギー漏れの少なさに加え、急速な加減速に耐えられる高速・高精度対応の制御システムを開発したことで40Gを実現しました。工作機械などでは、限られた時間に一定の距離を頻繁に往復しながら処理を行いますが、加速度が高ければ高いほど数多くの処理をこなすことができる。つまり生産性が上がるということになります。
− 構造がシンプルで構成部品も軽ければ、設備コストも下がりますね。
金: 多極構造で構成する場合も、一つの電機子巻線で多極化が可能なため、生産コストの多くを占める巻線作業やリード線処理が簡単になり、低コスト化が可能です。
 また、物理の原理には作用と反作用があることはご存じですよね。例えば、重いものが動くとその反応で土台も揺れる。軽いものが動けば揺れも小さくてすむ。半導体チップのワイヤーなどは髪の毛よりも細いのですが、それを運ぶリニアモーターのヘッド自体が重いため、装置全体がウァンウァンと唸る(笑)。だから土台もしっかり作らないと台ごと揺れてしまっていたわけですね。その点、新技術なら装置自体が軽くてすむため、システムが小型・軽量化できます。将来的に周辺装置の開発が進めば、全体コストも確実に減っていくはずです。

− 工場の騒音低減にもなりますね。

金: 確かにそうですね(笑)。



木箱で作られたトンネルアクチュエータの試作品



トンネルアクチュエータ試作品
■ どうしてもあきらめられなかった夢

− 金さんがこの技術を開発されたきっかけは。
金: 私は韓国の大学を出てから日本に留学し、大学院でリニアモーターや磁気浮上、超伝導などの研究を続けてきました。その後、日立製作所に入社してからは、主に回転モーターの開発に従事していましたが、どうしても学生時代の専門分野でやり残したことがあるんじゃないかと、心の中のモヤモヤが続いていたんですね。小さくてもいいから、せめて何か自分自身の力で1つの原理と呼べるものを生み出したい――それが夢でした。


開発に携った情報制御第一研究部 研究員の皆さま
 そうこうしているうち、ある日突然、頭の中で新しい原理がひらめいたんです。「これだ!」と。早速、木箱でイメージを作って同僚や上司に見せました。その時の評価はいろいろだったんですが、その後も仕事時間以外に地道に研究を重ねながら周囲への説得を繰り返しました。そして進退をかけるつもりで3年前、「ぜひ、これだけに専念させてくれ」と訴えましたら、本社の幹部が「じゃあ、やってみなさい」と(笑)。それからチームを組んで本格的な制御技術や生産技術にも取り組みながら、ようやくここまでたどり着いたことになります。
− 努力が実られてよかったですね(笑)。ところで気になるのは実用化の時期と今後の展開ですが。
金: まずは応用製品の要求仕様に応じた最適システムの構築を進め、1〜2年後の実装置への適用を目指します。次の段階としては、より幅広い製品への適用とともに、今までの駆動装置では不可能と思われていた環境を作りだし、さまざまな研究開発に役立てる技術として育てていきたいですね。
 例えば現在の40Gを100Gぐらいまで高めることが可能なら、無重力状態などの環境を擬似的に再現できるかもしれません。
 とにかくトンネルアクチュエータのアイデアというのは、原理的に言えば100年前に生まれてもおかしくないものでした。今の世の中では新技術がどんどん生まれ、短いサイクルで移り変わっていきますが、このアイデアはシンプルであるがゆえに「原理」として育てていけるものだと思います。できればこれから何百年も生きる技術になっていってほしいですね。
− 期待しています。今日はどうもありがとうございました。
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