





このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。
研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
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古代出雲の伝統を受け継ぐ、鉛フリーはんだボールをつくる 「玉作」たちに逢った「均一液滴噴霧(UDS)法」
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■ 環境にやさしい「鉛フリーはんだボール」
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取材の主旨は「はんだボール」である。「はんだ」は、スズと鉛の合金。金属接合の「はんだづけ」の、あの「はんだ」だ。日立グループは環境問題への取り組みとして、鉛を使わない「鉛フリーはんだ」を積極的に展開しているが、事柄の意味合いとしては金属接合の「はんだ」をイメージしていただければいい。あの「はんだ」の「ボール」。真球状のもの。
ただし「ボール」の直径が80ミクロン級という極小サイズだ。安来工場にはUDS法(均一液滴噴霧法)といって、任意の組成、均一サイズ、高真球の「はんだボール」製造技術を確立した、冶金研究の野心的なプロジェクトがある。お話をうかがったのはプロジェクトの中心的研究者、佐藤光司さん、藤吉優さん、そして埼玉県熊谷市の生産システム研究所から設備的バックアップを担当している伊藤元通さんの3人だ。
まず、そんな極小の「はんだボール」を一体、何に使うのか、キーマンの佐藤光司さんに説明していただこう。
「電子部品がより多くの機能を求められると、たくさんの信号をやりとりしなくてはならないんですね。そのためには、同じ面積でより多くの信号を出せる電子部品の形態が必要になります。従来の基板だと4辺にしか足(信号をやりとりするゲジゲジの足のような部分)がなかったのですが、それでは限界がある。そこで、辺だけでなくチップの裏側にびっしりと足をつければ、4辺だけだと100×4=400個だったものが、100×100=10,000個にできる。同じ面積でより多くの信号のやりとりを可能にする微細な足を接合する材料、それが『はんだボール』なんです」(佐藤さん)
日立金属はこれまでも基板の「ゲジゲジの足」、リードフレーム材を作っていて、鉄系のリードフレーム材に関しては世界シェアの5割を持っているという。ただ環境問題が脚光を浴びるなか、これに対応しないとシェアが失われないかという危機感が生まれた。佐藤さんの初志は「それなら、いっそのことそれに代わる材料を自分たちでやろう」というものだった。誰もやっていないやり方で、材料を作ろう。
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■ 超音波の振動で極小ボールをつくる
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安来工場は伝統としてハガネ一筋、特殊鋼の工場だった。
「ハガネしかやってこなかったんです。鋼の世界では、はんだに関わる元素は不純物で、嫌われるんですよ(笑)。研究していても、『材料は絶対こぼすなよ!』と(笑)。だけど、伝統をいい意味で打破しようと思いました。スタートしたのは98年の秋頃です」(佐藤さん)
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製造プラントにて。プラントは、鉛フリーはんだを冷却する回収
チャンバーの高さをかせぐため、既存工場の屋上に設置された。
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極小「はんだボール」の製法となるUDS法は、佐藤さんが留学先のMIT(マサチューセッツ工科大学)で学んだ技術のひとつだった。ただ大学の研究レベルと、企業が実戦投入する技術の熟成レベルはまったく異なる。帰国前にスケッチを描いて、それをもとに設計図を起こしてもらった佐藤さんだが、プロセスを一から作る大変さは想像を絶するものがあった。
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「MITの研究者は10秒くらい動いたら、『できたできた』ってことになるんですね。我々はそれを24時間動かさねばならない」
従来製法は、例えば棒状の「はんだ」を輪切りにして、加熱した油にくぐらせて丸く固める発想だ。UDS法では水道の蛇口をひねるように溶けた「はんだ」を落下させる。その際、超音波の振動を与えることで「流れに脈を作り、その脈が切れて玉を作る」ようにしてやる。
「ピエゾ振動子という圧電素子を使うんですが、振動をいかにうまく伝えるかに苦労しました。1秒間に数万個作らなければなりませんから、その振動を連続して安定的に伝える構造と、材料の選定がカギでしたね」(佐藤さん)
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■ 二千年の「はんだ史」を変えるチャレンジ
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1秒間に数万個の極小「はんだボール」を作るプロセスを考えると気が遠くなりそうだが、伊藤元通さんにはさらに気が遠くなりそうな試行錯誤が待っていた。
1秒間に数万個生産される極小「はんだボール」を検査しろ、である(!)。ダンベル状につながってしまうNGボールが稀(まれ)に発生するのだが、実戦投入に向けて佐藤さんから鬼のような指示が出た。
「安来工場から形状不良のボールは一個も出してはいけない、ということで、全数検査して欲しいといわれたんです。これには周囲からアホなという声も出て(笑)。個人的には人がやっていないことをやりたいというのがあって、できると思ってないのに引き受けてしまった(笑)」(伊藤さん)
藤吉優さんは、「鉛フリーはんだ」の強度の研究だ。実戦投入されると、例えばケータイ電話などよく落っことされるわけで(僕はしょっちゅう)、極小「はんだボール」の耐衝撃性が問題になってくる。人類史と共に二千年ほどの歴史がある鉛&スズを使った「はんだ」は、今、新しい冶金技術で鉛フリーに向けて変革している最中だ。佐藤さんからの鬼の指令は「はんだ史二千年をひっくり返せ」である。
「はんだが100℃でジワーッと変形していく挙動(クリープ)を、はんだボールの大きさで見たことがある人は誰もいないんです。指示は、ゆっくり変形していく様子を新しい合金系で全部データをとれと(笑)。基板などから溶け込んでくる元素の影響も含めて全部自分の目で確かめろ、です。その挙動の違いが分かるようなデータをマップで持っておけば、どんなお客さんがどういう条件でどう使っても、その問題はここが関係してるんじゃないかといえる。だからデータを全部とれと(笑)」(藤吉さん)
伊藤さん、藤吉さんの研究の具体は、企業秘密にも関わり、また、それ以上に僕の力量に余ることでもあって、伏せさせていただく。彼らが佐藤さんの「無理難題」をいかに克服していったかは、だから読者の想像にゆだねよう。ただ強調しておきたい。僕が3人の研究者の取材で目が覚める思いがしたのは、意欲が成し遂げるものの大きさだ。歴史を創り、あるいは連続させるものの正体を、僕は由緒ある安来工場で見たのだと思う。
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