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開発者に聞く



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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
“自分で歩ける街づくり”をサポートする「歩行者ITS」
■ 点字ブロックに位置情報のICタグを埋め込む

− 歩行者ITSの研究が開始された背景から教えてください。
鵜沼: 2015年には国民の4人に1人が65歳以上の高齢者になると予想されていますが、身体障害者の数もそれにともない、年々増加傾向にあります。そこで政府は2000年に「交通バリアフリー法」の施行によって、駅や空港、バスなどのバリアフリー化を義務づけ、高齢者や障害者が積極的に社会活動に参加できる“まち作り”の推進を開始しました。
 これらの施策は、段差の解消やエレベーターの設置、点字ブロック敷設などの物理的なバリアフリー化からスタートしましたが、今後はITを駆使した手段の提供も必要になるとの考えから、国土交通省では歩行空間のバリアフリー化を目的とした「歩行者ITS(Intelligent Transport Systems)」の技術策定を呼びかけていました。この共同研究に日立コンソーシアムが参画し、開発したのが「歩行者ITS」なのです。
− どのような技術を使って視覚障害者の歩行をサポートするのでしょう。
倉田: 点字ブロックに埋め込まれているICタグに記録された位置情報を、タグリーダー内蔵の白杖で読み取るとともに、歩行者の歩く方向を磁気方位センサーで確認し、目的地までのナビゲーションや、段差・横断歩道など危険個所の注意喚起を行います。
 ICタグは点字ブロックの四方30センチと上方約15センチを通信エリアとしており、ここをリーダー内蔵の白杖が通過すると、ICタグの位置情報を瞬時に読み取ります。また磁気方位センサーは、絶対方位と、次に進むべき方向との差を計算し、「右方向」「右斜め前」「直進」などの表現で、進行方向を案内します。これらを組み合わせると、あらかじめ設定した経路の中で、「10m先、左です」とか「5m先、下りの階段があります」「経路を外れました」といったようなメッセージが生成され、一人歩きをサポートするのです。弱視の方なら、PDAや携帯電話の画面にナビゲーションがビジュアルに表示されるので、それを見ながら歩くこともできます。

歩行者ITSシステムの装着イメージ
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 位置検出なら、カーナビゲーションシステムなどで広く使われているGPS(Global Positioning System)という技術もありますよね。
鵜沼: 確かに当初はGPSも考えました。しかし歩行者の場合、屋内や地下街など、GPS衛星をとらえることができない場所が多いこと、車に比べて建物寄りを歩くため、通信が遮断されるケースが少なくないこと、さらに測位誤差が数mから数十mと、精度が不十分であることなどを考慮し、今回は採用しませんでした。
 つまりこのシステムはICタグを埋め込んだ点字ブロックに沿って移動することを前提としているわけですが、ブロックが設置されている経路であれば、屋内・屋外を問わずに安心して目的地まで移動することができるのです。

■ 「何十年ぶりに一人で知らない道を歩くことができた」

− 歩行者が身につけるツールの大きさも重要な要素ですね。
倉田: ええ。外を歩く際には常に身につけていただかなくてはならないため、サイズの小型化には苦労しました。プロトタイプでは端末にノートPCを使い、毎日背中にしょって歩いたりしたわけですが(笑)、現在ではコンパクトなPDAや携帯電話にシステムを収め、モバイル性を大幅に高めています。さらに、音声の指示には骨伝導スピーカーを採用し、雑踏の中でも経路案内などの各種情報を聞き取りやすくしました。
 2002年3月には大阪市・梅田の地下街で約一週間の実用実験を行いました。30名以上の視覚障害者や車いす利用者に体験していただいた結果、経路誘導や危険警告の基本的な機能に関しては、実用レベルに達していることが確認されました。

携帯電話型の歩行者ITS端末
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 使った皆さんからの反応はどうでしたか。
鵜沼: 「何十年ぶりに一人で知らない道を歩くことができた」とか「本当に楽しかった」という意見をいただき、非常に嬉しかったですね。これまで視覚障害者は、道を覚えるために必ず何度か歩行訓練士の方と一緒に歩く作業が必要で、知らない場所をいきなり一人で歩くことは非常に困難でした。しかし歩行者ITSなら、カーナビと同じように、知らない行き先でも、ICタグを埋め込んだ点字ブロックさえあれば正確に案内することができますし、本人の現在位置をもとに、近くの店やトイレへ誘導することも可能です。
 また一方では、「装置をもっと軽くできないか」とか「音声ガイダンスを、もっと聞き取りやすく」といったご意見もありました。今後はこれらの貴重なご意見をきちんとフォローしていくことが課題となります。

■ 自律的位置検知技術で横断歩道もナビゲート

− 視覚障害者の一人歩きをサポートするためには、ICタグを埋め込めこんだ点字ブロックを、もっと街中に増やすことも重要ですよね。そうなれば、健常者にとっても便利に使えるシステムになっていくような気がします。
倉田: そういった幅広い可能性も追求していきたいと考えています。例えば健常者が使うシーンを想定しても、高精度なGIS※データベースと通信で連携すれば、いま歩いている地域の詳細なタウン情報を取得しながら、目的地までナビゲーションできますし、美術館や博物館などでは、壁に埋め込んだICタグと展示物を連携させ、その解説をPDAや携帯電話で確認しながら閲覧したりすることも可能でしょう。
 また、少し意味合いは違いますが、トレーサビリティで使われているICタグの情報をサーバ経由で音声変換することで、視覚障害者でも、それがどんな種類の野菜で、賞味期限はいつまでかを確認しながら買い物ができる――そんなシステムへ進化していくことも決して夢ではないわけです。

※デジタル化された地図(地形)データと、統計データや位置の持つ属性 情報などの位置に関連したデータとを、統合的に扱う情報システム。

システム機器構成
※クリックして拡大図をご覧下さい

ICタグの読み取りイメージ
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 今後の展開は。
鵜沼: 現在のシステムでは、点字ブロックがとぎれている場所、例えば横断歩道などでは視覚障害者を誘導できません。そこで、人が「歩いている」「走っている」「倒れている」といった状態を加速度センサーによって認識できる「動作認識技術」を応用した「自律的位置検知技術」を開発中です。この適用によって、歩行者の歩幅と移動距離を算出し、磁気方位センサーで進行方向を検知しながら、安全に横断歩道を誘導することが可能となります。これを歩行者ITSに適用することや、より精度の高いGPS、無線LANによる位置検知技術などと組み合わせたハイブリッド化も検討していきたいと考えています。
− 今日はどうもありがとうございました。
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