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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
世界最高レベルの個人認証を実現した小型・高速・高精度の指静脈認証技術
■ 究極のバイオメトリクスとして大きな反響

− 日立が世界で初めて開発した指静脈認証技術、これまでの経過を簡単に振り返っていただけますか。
宮武: 指紋や眼球の虹彩、声、顔など、その人にしかない固有の特徴を用いるバイオメトリクスは、IDカードなどに比べて偽造や盗難、紛失などの危険が少なく、より確度の高い個人認証手段として認知されるようになってきました。しかしこれらのバイオメトリクスは、すべて生体の表面に現れているものをカギとしています。このため、複製をとられたり偽造されたりする可能性が皆無とはいえません。
 そこで日立は1997年から、指静脈認証技術の研究に着手し、2000年に基本技術を発表しました。外部から体に近赤外線を照射すると、血液中のヘモグロビンが近赤外線を吸収するため、静脈部が暗い影となる。そこにコントラストをつけてパターンを抽出し、あらかじめ登録されていたパターンと照合するのが基本的な原理です。対象は手のひらでもいいわけですが、あえて指を選んだのは、システムサイズの小型化が図れることと、ケガをした際にも代わりとなる指を複数登録できると考えたからです。静脈は外部から見えにくいうえ、個々人でパターンが異なるので、安全性が極めて高い究極のバイオメトリクスとして、発表以来大きな反響をいただいています。

「指静脈認証システム 静紋(じょうもん)」
(日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社)
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 今回の機能強化では、どのような点にポイントを置いたのでしょう。
宮武: 従来機でも認証精度は非常に高いレベルにありましたが、今回は世界最高レベルの精度とスピードをめざしました。そのため、「指の個人差」や「寒暖による血管の膨張・収縮」「装置への指の置き方」などによる変動幅を吸収し、より精度の高い認証をスピーディに行えるようにしました。

■ 指の個人差や、装置への置き方の差を吸収

− 新しく開発した技術を教えてください。
長坂: まず、「指の個人差に適応したイメージング技術」です。指の太さや装置への置き方は人によって個人差があります。また、同じ指でも指先と根元では太さが異なります。当然、同じ量の光を当てても抜ける光の量が違ってくるため、これまできれいなパターンが抽出できない場合がありました。そこで指の部位に応じて近赤外線の光量を自動制御する技術を開発しました。さらに、気温の変化によって血管は膨張したり収縮するため、得られる画像上での太さも若干変化してしまいます。そこで、血管幅の変動に対応できるよう、血管の中心線付近の特徴だけを利用することで、間違いなくマッチングできる「新静脈抽出アルゴリズム」を開発しました。こうして、指の個人差と、血管の膨張・収縮幅をそれぞれ吸収することで、今まで以上に鮮明な静脈パターンが得られるようになったのです。
三浦: もう1つが「パターン変形を補正したマッチング技術」です。装置に指を入れる際、だれもがいつでも同じように入れてくれるわけではありません。これが時には、位置ずれや拡大率の変化をともない、マッチング精度を低下させる要因となっていました。そこで、指を多少ラフに置いても、画像の傾きや拡大率を補正して照合するアルゴリズムを開発しました。

新開発の高性能化技術
※クリックして拡大図をご覧下さい
− それでもマッチングに要する時間は以前より格段に速くなっていますね。
河野: 普通のパソコンのCPUでも1万指登録のデータベースに対して1秒で照合が終わる速さです。従来比で約10倍の高速化となります。展示会などでも皆さん、その速さに非常に驚かれる。私たちにとってはとても嬉しいことですね。
三浦: 今回、組み込み機器用CPUでの動作も考え、CPU負荷を減らすように血管パターン抽出のためのアルゴリズムを変えたこと、データベースとのマッチング処理のさらなる効率化を図ったことで一段とスピードを速くできました。

■ 世界最高レベルの精度を実現

− 精度的にはどれほど向上したのですか。
宮武: 539名を対象とした実証実験では、従来0.3%だった等価エラー率(登録者本人を本人ではないと誤認識する本人拒否率と、他人を登録者本人と誤る他人受入率が等しくなる率)が0%になりました。これは現時点では世界最高レベルの精度だと自負しています。
 また、パソコン用CPUだけでなく、(株)ルネサステクノロジーの製品の組込機器用CPUであるSuperH上でも動作します。SuperHを使った装置は機器容積を従来の約1/3にまで小型化しました。パソコン上で動作するシステムは「指静脈認証システム静紋(じょうもん)」(日立ソフトウェアエンジニアリング 株式会社)として、またSuperHを使ったシステムは「指静脈入退管理システムSecuaVeinAttestor (セキュアべインアテスター)」 (日立エンジニアリング株式会社)として、それぞれ非常にコストメリットのある価格で製品化されています。

「指静脈入退管理システム
SecuaVeinAttestor(セキュアべインアテスター)」
(日立エンジニアリング株式会社)
※クリックして拡大図をご覧下さい
− 活用シーンも広がりそうですね。
宮武: 「静紋」はサイバーセキュリティ、「SecuaVeinAttestor」はフィジカルセキュリティにそれぞれ対応しています。サイバー分野では、住基ネットなどの機密データを取り扱うシステムへのアクセス管理、企業内でのPCログインや決裁などの業務アプリケーションなどへの適用が考えられます。また物理的な入退管理を行うフィジカル分野では、すでに実績のある研究所やコンピュータルーム、VIPルームなどのほか、金融機関やマンションなど、確実な本人確認を必要とする場所での適用が進んでいくでしょう。社内でも導入が進んでおり、研究所はもちろん、社長室にも設置されているんですよ。
長坂: 指静脈認証は、装置にほとんど触れなくてすむため、衛生面でも優れています。
 このためSARSなどで衛生面に敏感になったアジア市場では特に引き合いが多くなっています。
− 今後の展開は。
河野: マンションや住宅への適用が進んでくると、子供の指静脈パターンの変化を考える必要があります。成人のパターンは変化しないことがわかっていますが、成長段階にある子供の指静脈パターンを5年、10年といった長期間にわたって追跡した例はまだありません。多くの方に安心して利用いただけるよう、基礎データを充実させ、必要ならば製品に反映させていきたいと考えています。
宮武: さらなる小型化も追求していきます。指紋認証と同じ大きさまで小型化できれば、PCやモバイル端末などへの埋め込み型としても展開できるでしょう。また指静脈認証技術は、発想もアルゴリズムもCPUも純国産ですから、「Next MADE IN JAPAN.」を代表するバイオメトリクスとして、今後も国内外に強くアピールしていきたいと思います。
− 今日はどうもありがとうございました。
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