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このコーナーでは、日立製作所の研究所等で研究・開発を行っている技術テーマを中心としたコラムをお届けします。 研究員にインタビューを行い、技術テーマ解説・開発過程におけるエピソードなどを交えてわかり易くご案内いたします。
マイクロからナノオーダーの加工技術を極めると、
掌に載るような超微細なファクトリーができる
■ 結晶異方性エッチングでプロセスの妖精に出会う

 トランジスタからIC、LSIへと、極小微細へ向かっていた半導体加工技術が何をもたらしたか関心ないだろうか。僕は素朴な疑問として「昔の大型コンピューターが今はこのチップ一枚」みたいな「小さくする力」は、何か全然別のことで応用がきかないだろうかと思っていた。
 応用をきかせる専門家が三宅さんと小出さんだった。通常の機械加工ではつくれないような微細なものを、半導体加工の技術を応用して、作る研究を担当してるのが小出さん、使う研究を担当してるのが三宅さんという分担だ。

 いや、小出さんからうかがった「ウェットプロセス」の話は強烈だった。「ウェットプロセス」というのは、シリコンなどの素材を加工していくのに、「削り出すんじゃなくて、溶液で溶かして形をつくる」方法である。代表的な加工方法に「結晶異方性エッチング」というのがある。溶液にザッとつけるだけなので、職人技が要らず大量生産に向いているのだが、「日立の小さくする力」は、いいですか、すでにミクロンレベルの三次元的加工(!)が常識なんである。小出さんは例えば極小プラモデルや立体パズルのようなものを組み立てる、日本有数の「シリコン単結晶マイクロ加工」モデラーと表現してもいい。
小出 「あまり実験室レベルで技巧に走ると、量産時のコストなんかもありますから、僕のところで職人技へいかないよう気をつけています(笑)。ただこだわりはありますね。研究所で十数人にこのプロセスを教えてきたんですけど、プロセスの妖精が出たら本物だと言っているんですよ(笑)」
 「プロセスの妖精」というのは小出さんの造語で、集中して研究に没頭しているとき、シリコン単結晶の「ささやきが聞こえる」瞬間があるそうだ。実際には「溶かして出る泡の量」の違いなどで、「あれっ、今日は違うな」と感じたりするようなことだという。
三宅 「この研究自体は一九六〇年代からありますが、三次元的に加工しようというのは、小出と小出の師匠が完成させたものなんです。これだけ美しい構造を作れるのは日本でも五人いないと思います。今はガスで素材を切って加工する方法もありますが、結晶の本来の形を利用しようとすれば、この方法しかないんです」

■ 医療や創薬を変える加工技術

 さて、この技術を何に使うか。三宅さんの出番だ。「ウェットプロセス」の技術を応用したものにはセンサー類が多いと聞く。クルマのエアバッグの加速度センサーや圧力センサーが代表例らしい。
三宅 「バイオMEMSの加工プロセス自体は、半導体加工で確立されていますから、それ自体はどうってことない。作り方そのものが開発なんです。面白いのは、小さくなると余分なものがなくなって本質的なものが見えてくるんですよ。例えば、この技術を使うと小さな流路が作れます。複数の液体を均一に混ぜるとき、互いの液の間隔を狭めれば狭めるだけ均一に混ぜられる。つまり、試薬を混ぜ合わせるマイクロミキサーを作るのにこの技術はぴったりなんです」

「日立の小さくする力」は仰天のポテンシャルを秘めている
 水道水の水質検査にこのマイクロミキサーを使うと、タンス大の検査装置が三〇センチ四方まで小さくできるそうだ。都市部は装置を置く土地のコストが高いから、「小さくする力」はまさに打ってつけだろう。
三宅 「我々がこの技術の応用で狙ってる本命は、血液分析装置です。日立グループは血液分析装置で世界トップシェアがあります。今は病院用が中心ですが、これから在宅診療などが本格的になってくれば、個人向けの血液分析キットが必要となります。我々はそこをめざしているわけです」
 医療のパーソナル化、テーラーメイド化は二十一世紀のベクトルだ。在宅診療はまだクリアすべき課題もあるが、おそらくバイオMEMSの技術は離島など、僻地医療を飛躍的に向上させるだろう。
三宅 「モノの生産にも使えます。反応の効率も上がりますから、純度の高いものが作れる。大きなタンクなどを使う必要もなくて、時間もかけずに新しい生産方法を確立できる可能性が高いんです」
 製薬会社の新薬開発を大幅にスピードアップさせる「金のナノ粒子を用いた光学式バイオセンサー」もこの秋、事業化を目指すことになった。これは金のナノ粒子の光学特性(色の変化)に注目して、新薬候補成分の化合物とたんぱく質の結合を簡便・迅速に見る方法だ。
 僕が今回、お二人から学んだのは「小さいことはメリットがある」ということだった。「日立の小さくする力」は仰天のポテンシャルを秘めている。
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